墨汁日記

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徒然草 第七十三段

2005-10-03 20:27:56 | 徒然草
 世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。
 あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔りぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書き止めぬれば、やがて定まりぬ。道々の者の上手のいみじき事など、かたくななる人の、その道知らぬは、そぞろに、神の如くに言へども、道知れる人は、さらに、信も起さず。音に聞くと見る時とは、何事も変るものなり。
 かつあらはるるをも顧みず、口に任せて言ひ散らすは、やがて、浮きたることと聞ゆ。また、我もまことしからずは思ひながら、人の言ひしままに、鼻のほどおごめきて言ふは、その人の虚言にはあらず。げにげにしく所々うちおぼめき、よく知らぬよしして、さりながら、つまづま合はせて語る虚言は、恐しき事なり。我がため面目あるやうに言はれぬる虚言は、人いたくあらがはず。皆人の興ずる虚言は、ひとり、「さもなかりしものを」と言はんも詮なくて聞きゐたる程に、証人にさへなされて、いとど定まりぬべし。
 とにもかくにも、虚言多き世なり。ただ、常にある、珍らしからぬ事のままに心得たらん、万違ふべからず。下ざまの人の物語は、耳驚く事のみあり。よき人は怪しき事を語らず。
 かくは言へど、仏神の奇特、権者の伝記、さのみ信ぜざるべきにもあらず。これは、世俗の虚言をねんごろに信じたるもをこがましく、「よもあらじ」など言ふも詮なければ、大方は、まことしくあひしらひて、偏に信ぜず、また、疑ひ嘲るべからずとなり。
 
<口語訳>
 世に語り伝える事、真実では面白くないのか、多くは皆虚言だ。
 ある以上に人は物を言いはなつので、まして、年月が過ぎ、場所も隔たるなれば、言いたきままに語って、筆に書き止められれば、やがて定まる。道々の物の上手(専門家)がすごい事など、かたくなな人で、その道を知らねば、むやみに、神の如くに言えども、道を知る人は、別に、「信」を起さない。音に聞くのと見る時とでは、何事も変わるものだ。
 このようにあらわれるのも顧りみず、口に任せて言い散らすのは、やがて、浮いたことに聞こえる。また、我もまことでないとは思いながら、人の言うままに、鼻のあたりをうごめかして言うのは、その人の虚言ではない。本当らしく所々ぼやかせて、よく知らぬふりして、さりげなく、つじつまあわせて語る虚言は、恐しい事だ。我がために面目あるように言われる虚言には、人はそれほどあらがわない。みんなが興ずる虚言に、ひとり、「そんなことなかろうに」と言っても詮無いので聞きいるうちに、証人にさえなされて、いよいよ定まるのだ。
 とにもかくにも、虚言多い世だ。ただ、常にある、珍らしくない事のように心得たなら、万事違わないだろう。下々の人の物語は、耳が驚く事のみある。よい人は怪しき事を語らない。
とは言え、神仏の奇跡、権者の伝記、それのみは信じないわけにもいかない。これは、世俗の虚言をねんごろに信じるにもおこがましく、「よもやあるまい」など言うのも詮無き事であるなら、大方は、まことらしくあしらって、むやみに信じず、また、疑い嘲るべからずとなる。

<意訳>
 本当の事など面白くもないのか、語り伝わる事の、ほとんどは虚言である。
 実際にあったこと以上の事を、人は語り伝える。
 ましてや、年月過ぎ、異国の出来事ともなれば言いたい放題の書き放題。とくに本などに書きとめられれば、やがては虚言も真実となる。とくにその道の専門家が書いた本ともなれば、無教養な人は神のごとくにもあがめるが、その道を知る者ならむやみに信じはしない。聞くのと見るのでは大違いなのだ。
 虚言など、やがてばれるものだとも考えず、口に任せて虚言を言い散らせば、そのうちに根も葉もない事と知れてしまうはずである。
 しかし、その虚言を聞いた者が、内心ではありえないと思いながらも、人から聞いたままに鼻をうごめかしながら本当らしく、ところどころぼやかせながら、肝心の事は良く知らないふりをして、さりげなくつじつま合わせて語る虚言の再生産は、虚言のもとはその人にないとしても、恐ろしいものである。
 他人の面目をたてる為の虚言には、人々はあらがわない。それで、その場が丸くおさまるならば、多少は嘘くさくても、みんな従う。そのうち、自分では嘘だと思っていたはずの虚言の証人にすらされてしまい、最後にはいよいよ虚言は真実の事のようにされる。
 とにもかくにも、この世は虚言ばかりだ。人の言う事など、当たり前で珍しい事などあるはずはないとでも思っていれば、虚言に流される事もないだろう。世間で噂される虚言は驚くようなものばかりだが、まともな人間は嘘などつかない。
 とは言え、仏陀の伝記や、神仏の奇跡は信じないワケにはすまないだろう。しかし、それとて、えーと、それは、世間の虚言をまともに信じるのとはワケが違って、あるわけないとか言うワケにもいかないので、大体を、ホントだと思いながらも、むやみに信じず、疑ったり、嘲ってはいけないんだんね。

<感想>
 兼好はかなり鋭いとこをえぐっている。嘘はいけない。

原作 兼好法師


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1 コメント

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ありがとうございます (Unknown)
2013-06-30 02:46:11
ありがとうございます
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