金の首輪

　夕方の六時過ぎ、西国立の駅においてきたままにしてある自転車を取りにでかけた。
　昨日は自転車で西国立駅まで行き、帰りはタクシーで帰宅したので自転車は西国立の駅前の駐輪場においたままだ。
　明日の朝に自転車がないと不便だ。しかし六時過ぎまで出かける気になれず、日も暮れかかる頃になってやっと家をでる。

　くもってはいるが、雲の隙間から太陽がのぞいて西の空だけ夕焼け空。おもてに出ると小雨がふりはじめてきた。変な天気だ。

　西国立への道すがら、昨日の夜の事を思い出してみる。

　昨夜は「お食事会」が終了の後、知り合いの社長さんに誘われて、国分寺のキャバクラに行った。
　もちろん、キャバクラは社長のおごりだ。彼はすごく気前がいい。

　社長は１９６８年生まれの３６才。
　現在３５才の俺の一つ上で、ほぼ同級生と言ってもおかしくないだろう。
　俺が、若い頃に見切りをつけ辞めてしまった職業で社長は成功をおさめた。
　社長につきそうのは俺を含めて３人。みんな社長のおごりだ。

　社長は金持ち。
　俺がかって勤めていた職業で、俺と社長のスタートラインはそんなに変わらなかったはずだ。しかし、現在の俺は貧乏なフリーター。社長は金持ちな社長。
　若い頃の社長は映画を撮りたかったそうだ。
　しかし、そんな夢にはとっとと見切りをつけて社長まで登りつめた。
　かたや、俺は下らない漫画家への夢に見切りをつけたのはつい最近。いつまでも、下っ端のペーペーだ。
　下手に、俺には漫画の才能があったのがいけなかったという事にしておこう。

　社長のおごりだ。社長に気をつかいつつ、楽しくはしゃぐ。
　となりに座った女の子に「今日のボスは彼だから、熱いネッ視線を送って下さいネ！」とか言いながら、女の子のケツに手をのばし「さわらないで！」と叱られながらも彼女を口説く。
　いつから、俺はこんなキャラになったんだ。

　水割りを飲みながら、俺の頭に「カネの首輪」という言葉が浮かぶ。
　今の俺は社長のカネにくくられた哀れな飼い犬だ。

　二時過ぎに飲みはおひらき。社長に三千円もらってタクシーで立川に帰る。
　どうせ、貰った金だ。スキンヘッドの運ちゃんに「ツリはいいから。」と全部くれてしまう。後で領収書を見たら彼は２６０円もうけた事になっていた。

　かなり酔っぱらっている。
　立川に戻ると気が大きくなり、ラーメンを食って風俗に行き散財する。

　風俗店でもなぜか出稼ぎの中国娘を中華風に口説く。
　
　そして、自分がカネでくくったメスイヌを前にしながら、頭の片隅でさっきの俺と彼女がどれだけ違うのかと考える。

　それだけでない。
　毎日。時給という「カネの首輪」をつけて働いている俺と今の彼女とどこがどれだけ違うのか。
　パン屋は肉体労働で、俺は労働力を売っている。彼女はまんまの肉体を売っている。
　それだけの違いだ。　

もしもし亀よ

亀さんよ

猫

　昔のある文豪が書いた文章を、ふと思い出しました。
「人は猫に女を見つけ、犬に男を重ねる。うんぬん。」
すいません、記憶で書いてるんで、あんまり正確じゃないんですけど。
ようするに、人が猫に対して感じるイメージはその人が女性に対して持っているイメージと非常に似ている。そして、犬に対して持つイメージはその人が男に対して持っているイメージと非常に似ている。と文豪さんはおっしゃりたいわけなんですね。
　では実際にはどうなんでしょう。
とりあえず俺自身で検証してみましょう。
猫はまず第一に可愛いよね。言われてみれば、たしかに可愛いのは女性だし。
実際に猫を数年飼ってた俺からみると、あの甘え方や、わがままさは女性っぽいよねとか思う。
　じゃ、犬はどうだろう？
犬は飼った事ないんだけど、確かに犬ってなんか男っぽい。
なんか臭いし、やたら攻撃的だし、忠犬なんていかにも古い男って感じだよね。
実は俺、犬には不吉なイメージしかないんだけど、種族の違う豚や羊とSEXしたりする雄犬には、不吉な印象しか持てない。
なおかつボス犬の命令で群れて狩りをする習性が、いかにも体育会系でやだ。
（犬好きの皆さんゴメン！）と言う事は、もしかして俺って男に不吉な印象を抱いてるって事なの。俺自身、男なんだけどな。
　この間、ある大学に勤める助教授の友達が言ってた。
ある大学のある教授なんだけどさ、とんでもない堅物で、女子大生にも容赦なく厳しいお人柄なんだそうだ。
　でも、とんでもない猫好きで、表で猫見つけるといきなしムツゴロウさん入っちゃうんだって。「うーん、君は可愛いですね～。キュートですよ～。だっこだっこしてあげますよ～。」こんならしい。
　そんで、なんかの会合のお供で教授と飲みに行った彼は最後のフィリピンパブで、ムツゴロウさん入っちゃて猫にはなしかけるのとまったく同じ口調でフィリピーナ口説いてる教授についつい爆笑してしまったそうだ。
うーん、お前大丈夫、教授に爆笑なんかしてとも思ったが、教授も猫の中に女の子を見つけていたのかな。

犬

　コンピュータの電源をつけて、
今日は一日モニターの前にいたが、
とうとうこの時間まで、何も書けなかった。
　一日中、ネットの中をさまよっていた。
なにが目的で、この人達はこんな事を書いているのか？
目的なんかなく、ただ俺の様に書きたいことを書いてるだけなのか。
たぶん、そうなんだろうと思う。
一人一人に問えば多分「違う」と否定するだろう。
しかし、俺にはどの人の発言にも目的を見つけられない。
ただ、言葉。文字が発する毒のみが充満している。
どの人も自分が押さえ込まれているという事のみを声だかに発言し、自分の目の前にいる仮想敵にむかって噛み付いている。
喫煙者は嫌煙者へ、猫好きは猫嫌いへ、ホモはのんけへ、法が自分にとり都合が悪い者は、警察や国へ、息子は父へ、娘は母へ。誰も彼も、とりあえず目の前の仮想敵に向かい噛み付き、自分は押さえ込まれていると毒をはきちらす。
　たまに喧嘩してないなと思うと身内で集まって、ごっこ遊びに興じている。

　こんな事書くと、お前は何サマだと罵倒を浴びせられるんだろう。
当然である、俺に他人がどうこう言えるだけの、なにかがあるわけじゃない。
全然ないのが現状だ。中学生に「あなたは＊＊でつね。」と正体を暴露され、スゴスゴ引き下がる程度の人物だろう。
　だけど、俺はちゃんと、他人に押さえ込まれているだけでなく、俺自身が他人を押さえ込んでいる存在である事を自覚しているし、こんな、ヤニだらけのボロボロの牙でも噛み付けば相手が痛がる事も知っている。
　もう本当に何を書いていいのか判らん。
始めたばかりだが、もうやめようかなと真剣に思う。
　こんな、お座敷犬の遠吠えみたいなネットの世界なんてつきあう必要もなけりゃ、発言を続ける意味もない。俺みたいな狂犬病で野良犬の負け犬ヤローは河原で妄想でもしているのが一番ふさわしい。なんて事言うと、じゃあ止めろと言う事なんだろうな。たぶん。
　うん、そうだね。

やめよう。今日でおしまいだ。