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映画・演劇のレビュー

空の驛舎『ムスウノヒモ』

2019-02-07 21:46:38 | 演劇

 

これはとても痛ましい芝居だ。しんどい話である。こういうお話をどういうふうに見せるのかが成否のポイントとなるのだろう。ウエットになりすぎると、ちょっと重いし退いてしまう。難しい。感情移入を拒否して主人公たちと距離を取る。だけど、客観的すぎてもよくない。バランスが難しいのだ。

 

このくらいの距離の取り方が適切でいいと思った。近くもなく遠くもない。中村ケンシはドラマチックと無縁で、淡々とした描写に徹する。兄と弟との確執や、介護のこと、孤独死という核心部分にむけて遡っていく。死後2日経っていたこと。大家が発見したこと、子どもたちと疎遠になっていたこと、色んな問題はひとり暮らしの父親の死という事実から始まる。何故、死んだのか、何があったのか、というミステリではない。子どもたちの介入を自分から拒絶して、ひとりを守り、死んでいった。子どもたちや周囲の人たちは彼を放置していたわけではない。自分から望んだことだ。

 

彼らには彼らの暮らしがある。まだ、大丈夫だ、という父親に甘えていたことは事実かも知れないけど、必要以上の介入を好まなかった孤高の人だったのだろう。遺品整理をしながら、後悔とか、安寧とか、いくつもの想いが絡まり合う。ずっと距離をとっていた兄と弟が間に入った従兄弟を通して歩み寄っていく。甘いハートウォーミングにはしないけど、結果的にはそんなふうにも受け取れる。中村さんの優しさのなせる技だろう。

 

両親とのこと、その思い出をたどる部分をさりげなくしたのもよかった。お話の中心を担う弟夫婦の間にある距離感もいい。最初は全く触れない弟の顔のあざについても、ラストでさらりと描き、母親が、そして父親がどう思っていたのかも、ちゃんと感じさせる。かゆいところにはきちんと手が届く芝居になっている。バランス感覚がいいからだ。必要以上のことは言わないし、必要最低限のことはしっかりと言う。そんなバランス感覚のよさがこの作品のすばらしさだろう。そこを見誤ったなら、芝居はとたんに嘘くさいものとなる。

 


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