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映画・演劇のレビュー

劇団未来『スリーウィンターズ』②

2020-11-30 21:05:12 | 演劇

劇場に入って、まず、目を奪われるのは、その舞台美術だ。廃墟と化した大邸宅をリアルに表現するのではなく、象徴的なイメージとして見せる。空中で正面に突き出した浮遊する廃材のインパクトは凄い。本来なら狭いはずのこの劇場の利点でもある高さを最大限に生かしたリアルと抽象の融合された空間造形は見事だ。壊れた額縁で囲われた空間はこの屋敷の居間だ。そこで4世代、3つの時間の壮大なドラマは繰り広げられる。

1945年、90年、2011年というのは日本における大きな歴史なのだがその同じ時間、日本から遠く離れたヨーロッパがこの作品の舞台だ。日本からは遠く離れたクロアチアの首都ザグレブ、そこにある屋敷で暮らすある家族の物語だ。同じようにそこでは歴史の転換点を描くのだが、もちろんこれは一切日本の事情とは関係しない。

この家族の物語を通して、ユーゴスラビアの歴史が描かれる。本来なら家族の小さなお話におさまるはずの物語は、その背後にあるユーゴという国の成立から崩壊、そして独立という混沌の歴史を描くことにもなる。

演出のしまよしみちはこの壮大なドラマを堂々たる2時間半の大作として見せていく。これでもオリジナルから大胆にカットして、短くしたらしい。さすがにこの劇場で3時間の芝居はきつい。本来ならこれはキャパ30(普段なら50席くらいで設定するところをコロナ禍で客席制限をしている)の劇場ではなく、600以上の中劇場以上の空間で見せるタイプの作品だ。それをこのワークスタジオで作るのは大冒険だったことだろう。しかも、ダイジェストにすることなく、作品本来の持ち味を最大限に生かした形で幸福な作品にして提示することができたのは凄い。

これはあくまでもある家族の物語なのだ、ということをしっかりと描くためには、小劇場という空間こそが適切なのだ。そして、その小劇場を最大限に広く見せることによって、個人と歴史のつながりを明確に示すことも可能となる。大きな劇場でなら、歴史のうねりが前面に出てしまい、個々のお話はそこに飲み込まれるのではないか。大河ドラマなのだけど、この芝居はまず、そこにいるひとりひとりの人間たちが際立つ芝居になっている。

3つの時代を時系列に見せるのではなく、エピソードは複雑に交錯していく。2011年、次女の結婚式前夜という時間を軸にして、この家を舞台にした、というよりこの家そのものを描く。彼らの60年に及ぶ時を、この屋敷のダイニング(リビング)に集約させて見せていく。彼らの姿を通して、その背後に広がる不安と恐怖を見事の体現していく。この小劇場で、役者たちが静かに見せる芝居を見ることを通して、劇の持つ力を最大限に示し得た。12人の役者たちを中心にしてスタッフが一丸となり、演出家の意図する明確な目標に向かって全員で突き進んでいく。sこに生きた人々の姿がくっつきりと描き出される。お話を見せるのではなく、人間を見せる芝居になっている。誰もが抱える不安と、それぞれが向き合い、歴史の大きなうねりの中で翻弄されながらも、無力感を抱えながら、自らの信じる道を進むしかない。

ひとりの女性が手にした1本の鍵。そこから始まる2時間半に及ぶ旅のドラマを見終えたとき、こんなにも豊かな気分になっている自分に驚く。これが芝居の力だ。

 


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