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映画・演劇のレビュー

窪美澄『アニバーサリー』

2013-06-26 20:56:23 | その他
 戦争のころのあれこれなんかもう散々いろんな映画やTVで見て、小説でも読んでるから、そんなのを窪美澄に書いてもらわなくてもいいよ、なんて思いながら読み始めた。不遜でした。

 第1章は、2011年3月11日に75歳だった老女が主人公。彼女の戦争体験が描かれる。それがもちろん3・11と重ねられる。震災と戦争は違うよ、なんて言わない。今から始まり、時間は遡行していく。少女の頃。戦争があった。戦争は彼女からすべてを奪った。でも、生きた。とても丁寧に戦時中から戦後の混乱期の心情が描かれていく。だんだんNHKの朝ドラでも見ているような感じで、どうなるのだろうかと先を気にしながら、どんどん読み進める。

 その後の時代を生き抜き、やがて結婚もして、子供も生まれた。2人の子を死なせた。2人の子を育て上げた。やがて、仕事も始めた。マタニティスイミングの講師として、妊婦と接する。彼女が出会ったひとりの妊婦がもう一人の主人公となる。家族の愛を失い、孤独に生きてきた少女はカメラマンを目指し、望まぬ子を身ごもる。第2章は彼女の話となる。ふたつの時代を生きたふたりの別々の人生が3・11の夜、交錯する。

 その日。東京で、ふたりは一夜を過ごす。そこから始まる2人の女の交流。第3章は世代も価値観も、生きてきた歴史も、何もかも違う両者が、やがてひとつになるドラマだ。生まれてきた赤ん坊を通して、お互いがさらなるその後を生き始める。

 震災と津波、原発事故。ラストはその1年後。明るいラストシーンが胸に沁みる。でも、それは安易な希望ではない。痛みを経て、諦めの先、それでも人は生きていく。そんな覚悟がそこには感じられる。


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