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映画・演劇のレビュー

『消えない罪』

2021-12-16 09:38:50 | 映画

サンドラ・ブロックが主演してプロデュースした渾身の一作がネットフリックスで配信が始まった。これも11月下旬から先行劇場公開中だ。最近ネットフリックス発信でのこういうパターンでの劇場公開作品は多い。(先日見た『浅草キッド』も劇場ですればいいのに。そのへんの線引きはどうなっているんだろうか?)とても気合の入った映画だと思う。ずっと不機嫌な顔をしているブロックを見続けることになる。化粧もせず、世間から目を背けて、他者に対して攻撃的で、敵意をむき出しにしている。20年間の刑期を終えて出所してきた犯罪者。警官殺し。幼い妹を守るためだった。だけど、殺人は償わなくてはならない。だから模範囚として過ごして出所した。

だけど、現実世界はある意味では刑務所以上に過酷だ。彼女の人生はなんだったのか。これからどうして生きていくことになるのか。映画は少しずつ彼女の事情を解き明かしていきながらも、決して同情的に感情移入するわけではなく成り行きを淡々と描いてく。被害者でも加害者でもないひとりの女としてリアルタイムでの行動を追う。だから、先の展開が気になり、スクリーンから(TVだけど)目が離せない。お話自体はいささかご都合主義でかなり甘い展開でもあり、突っ込みどころは確かに多々あるけど、見ているぶんには気にならない。その先をどこに持ってくるか、のほうが気になる。

妹の件、彼女を引き取り育てた養父母一家、殺してしまって警官の家族の話、犯行現場となった彼女の家、今そこに住んでいる弁護士家族、職場である水産工場とその同僚、ボランティアで大工仕事をする仕事場、それぞれの場所、人たちが絡み合い、彼女の20年の空白後の時間が綴られていく。そして当然すべての決着がつくクライマックスに至る。一応娯楽映画としての定石は踏まえたうえで、確かなテーマを持ちメッセージを届ける良質の作品だと思う。たとえば、瀬々敬久監督の『護られなかった者たちへ』なんかに近い。彼女の抱える痛みは彼女の怒りと共に確かに伝わる。この持って行き場のない腹立ちをどうしたらいいのか。罪は罪。だけど、それとどう向き合い。どう決着をつけるのか。妹との再会、抱擁で幕を閉じるだけでは終われない。(行政側がもっと手厚く接してくれたならよかった、とか、両親を失いよりどころを失くした未成年者の立場を考えて対応してくれたならこういう悲劇は起きなかったかもしれない、とか、そんなレベルでの納得は意味をなさない。)

『システム・クラッシャー 家に帰りたい』という映画で注目されたというドイツの新鋭ノラ・フィングシャイト監督の2作品目。若くて注目された作家をどんどん起用してチャンスを与えるネットフリックス映画は凄い。しかも難しい題材にもちゃんと予算を与え、納得のいく映画作りを委ねているようだ。毎日、ネットフリックスから提示される映画のチェックは欠かせない日課になりつつある。

 

 

 

 


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