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映画・演劇のレビュー

売込隊ビーム『徹底的に手足』

2009-10-26 22:52:34 | 演劇
 『ずらり200体、海向こうの脅威への威嚇。僕らはそんな戦闘機の整備士。一度として実戦使用されたことがないこの兵器の軋みを徹底的に除去せよ。』

 これはなかなか刺激的な紹介文ではないか。上手いので、そのまま引用させてもらったが、少し僕なりにアレンジし直して、そこから話を始めよう。

 海に向かって巨大ロボット型戦闘機が配備されている。その様は壮観である。だが、このロボットは実戦で使用されることはない。だいたいこの国は憲法で戦争を放棄しているはずなのだ。なのに調子に乗ってこんなものを作ってしまった。諸外国からは非難される。当然のことだろう。これはこのロボットを整備する仕事に就く人々の物語だ。

 とっても小さな話をとっても大きな状況を背景にして描く。国家存亡の有事の前でオタオタする彼ら末端の整備士たちの姿を通して、この世界の未来を決するようなとんでもない事態を描く。ただのドタバタではないはずなのだ。だが、見てるとなんでもないドタバタにも見える。ミニマムな状況の中で数人がうろたえるだけの茶番である。ここで起きた出来事が国家を揺さぶる大惨事にもつながり、世界さえ動かすことにもなり兼ねないのに、なんたる危機感のなさ、ノーテンキさ。

 巨大なロボットの足元で描かれるこのドラマの卑小さぶりは、なんとも言いようがなく凄い、としか言いようがない。日本が世界に誇る巨大ロボットアニメの世界が現実となった時、その技術力と存在自体のインパクトが反対にこの国を危機に陥れてしまった、というブラックユーモアの中で、こんなにも緊張感のないドラマとしてお話を作り、それをそれなりにシリアスに見せるってかなりすごいのではないか。さすが横山拓也さんだ。発想だけでなく、その見せ方がすばらしい。テンションの高くない会話劇として構築するのがいい。

 これはコメディーなんかではない。何度も言うが危機的状況なのだ。一触触発で戦争にもつながる。核兵器以上のインパクトをもつ兵器を作ってしまったことから生じる笑うしかない状況、そしてそれを管理し、維持していくだけのために注ぎ込まれる膨大な国家予算。

 あげくは某国のスパイが入り込んで来て、彼が機体を乗っ取ろうとする。ロボットに乗り込み自国へと逃亡を試みるなんていう事件まで用意して話を盛り上げる。だが、そのエピソードがメーンではない。どちらかと言うとそれはどさくさにまぎれてつけたされた印象しか残さない。

 意味深なタイトルはこの作品を見事に象徴する。ストレートすぎてビビるくらいだ。この「手足」(というか、足! 舞台美術は、下手に巨大な足があり、その足場を舞台にして話は展開する)の先には目に見えない、手の届かない複雑な政治的状況が絡み合っている。(文字通り舞台には足しかないから、その先は見えない)それはここで働く彼らには預かり知れないことだろう。彼らは軍事機密の中に居て、手足として言われるまま働く。そんな人々の日常を描きながらそのドタバタをコントレベルで見せていく。それだけで終わらせるという欲のなさ。それこそがこの作品で横山さんの目指した世界であろう。背後に横たわる危機的状況や世界の在り方には一切関知しない潔さが素晴らしい。彼が描きたかったのは断じてそこにはないから当然なのだが、それにしても思い切りがよい。

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