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映画・演劇のレビュー

エイチエムシアター・カンパニー『月の光』

2017-07-15 16:39:09 | 演劇

 

ハロルド・ピンターの作品を日本初演で贈るエイチエムピー・シアターカンパニーの新作。笠井さんはもう自由自在だ。3度の『アラビアの夜』(同時に2種類の演出でやったこともある)を見て、彼の手にかかれば同じ作品がそのつど新鮮なものになる、というのはわかっているのだけど、それでも、また、こんなふうに新しい見せ方で、やられると、どれだけいろんな引き出しがあるのですか、と驚かされる。

 

もちろん、これは『アラビアの夜』ではないのだけれど、空間の使い方が似ているから、ついつい同じシリーズとして、受け止めてしまう。簡単なセットと、映像を使い、シンプルなのにスタイリッシュで、贅沢な空間が立ち上がる。いつものことだが、素敵だ。役者たちがとてもいい。芝居が絡み合わないから、それぞれが立つ。

 

これから死んでいく男と、すでに死んでいる少女が白。彼ら以外の5人は黒。彼らの交わす言葉は、どこまでが本当なのか、よくわからない。もちろん、決して嘘をついているわけではない。だが、言葉は相手に向かわない。自らの孤立が、そうさせる。彼らの声が、上滑りしていく。息子たち、娘(死んでいる)、夫婦、という関係性が緊密なドラマを提示するはず。その真摯な言葉は、胸に突き刺さる。なのに、それはそうはならない。

 

どこにでもありそうな5人家族。どこにでもあるような断絶。下の娘の死。バラバラになった家族。もうすぐやってくる夫の死。それを迎える妻の心境。距離を取る2人の息子たち。外部は夫の弟とその妻だけ。家族なのに、孤立し、人は皆、孤と孤であり、その集まりに過ぎない。どこまでいっても、わかりあえるわけではない。そんな絶望的な孤立が身にしみる。


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