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映画・演劇のレビュー

金蘭会高校『さよなら小宮くん』

2011-03-24 23:37:10 | 演劇
 金蘭演劇部による等身大の日常スケッチが一度見てみたかった。普段僕たちに見ることが出来るHPFでの彼女たちの作品は、2時間を超える超大作ばかりだ。しかも非日常の世界を描く特別なドラマをケレンみたっぷりに見せていく。そこでは野田秀樹や唐十郎、鄭義信といった作家たちを取り上げることが多い。何本か見たコンクール用の作品も日常生活をベースにしながらも、そこから非日常へと導かれるものだったように記憶している。それだけに今回のなんでもない、どこにでもあるような出来事を取り上げた作品はとても楽しみだった。

 静かなタッチの学園ものではなかった。いつものようにダイナミックな芝居である。転校していく友だちの送別会を描くだけのお話なのに。それはそれでおもしろい。最初、主人公の子供たちのことを、小学生という設定だと思いながら見ていた。後半になって、なんと高校生であることが判明し、さすがに驚く。しゃべっていることや、やっていることがとても高校生には見えなかったからだ。

 どうしてこんなにも幼い高校生を造型したのだろうか。故意にしているのか、この子たち自身が幼いからなのか、よくわからない。芝居の内容同様、彼女たちの演技もとても子供っぽい。それは下手である、ということではない。というよりも彼女たちはとても上手い。(よく訓練されているから当然のことだ)ここに描かれる内容の幼さと、彼女たちの的を射た芝居とがぴったりと一致して、作品自体の収まりはいい。要するに彼女たちがちゃんと小学生に見えるということだ。しかし、それって僕の思う等身大ということとは少し違う。だいたいこれって高校生の役だし。

 とてもよくできた高校生演劇なのだろう。それは認めるが、ここからはそれ以上のものは見えてこない。この芝居を通して描きたかったものって、何なんだろうか。ここで描かれることが、それぞれが悩みを抱えて今を生きている高校生の現実だとはとても思えない。敢えてこんなにも幼い作品スタイルを取ることによって子供たちを描くことから見えてくるもの、それが何なのか僕にはわからない。

 ここまで書いてきて、これは金蘭会の子供たちが書いたオリジナル戯曲だと思っていたのだが、もしかしたら既成の戯曲ではないか、と不安になってきた。調べてみると、なんとこれは大人が書いたものだった。僕にはよく解らない。ここに描かれる高校生はノスタルジアなのか、それともこの作家は、本気で「今の高校生はこんな感じだ」なんて思ったのか。
 
 いろんなアプローチがあるから、この台本を否定する気はない。先にも書いたように高校生演劇の台本としては悪くはない、とは思う。地方の高校生のスケッチとしては、これはこれでリアルなのかもしれない。夜逃げなんていうものが、確かにあり、それを笑いながら語ることも、舞台となる食堂もやがて閉鎖されることも、現実なのだろう。だが、なんだか見せ方が僕にはリアルには見えなかった。


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2 コメント

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高校演劇の危機 (大橋むつお)
2011-04-05 16:18:24
この学校に限りませんが、最近の高校演劇の作品を観ていると「高校生」を感じません。一見それらしく見えても、それはマスコミの目を通して見た「高校生」でしかありません。例えば、こんなイジメはないだろう、不登校はないだろう、想像妊娠はないだろう、等々。現場で30年教師をやっていたので、この実感は深刻です。観る側もマスコミの刷り込みで「高校生とはこんなものだ」と思ってみているところはないでしょうか。生徒や顧問はそれに無意識に追随して、リアリティーのない「高校生」を創ってしまいます。今、高校演劇は衰退し始めています。連盟加盟率は50%を切っています。正確に言うと演劇部が成立していない学校が多いのです。大阪には約250の高校がありますが、加盟校は120校。コンクール参加校は102校に過ぎません。現存する演劇部の大半が部員5名以下の絶滅危惧種です。今、こういう絶滅寸前の演劇部の回復をはからなければならないと思います。
そのためには5人以下で演れる芝居が必要だと思います。わたしはしがない劇作家ですが、上演許可を求めてくるのはこいうがっこうばかりで、売れ筋は登場人物3人というところです。中には部員が一人になったので、「大橋さんの一人芝居をやらせてください」というところもあります。演劇部を考え直す時期にきているとおもいます。
大橋むつお
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Unknown (一般女性)
2011-07-12 00:15:58
「さよなら小宮くん」の原作をぜひご覧ください。この作品は、高校生の部員の近くに寄り添う方が、その子たちをあて書きした作品です。
高校生にしかできない、高校演劇の良さがつまった、あったかいお芝居です。そして確かに劇中の高校生たちは「幼い」のかもしれませんが、それは彼らの「辛いときにこそ笑いとばそう」という意思があっての「幼さ」であると勝手に思っています。脚本、芝居だけでなく、この現代に明るい高校生を描く作者さんのセリフの選び方、展開、そして演じる高校生たちに心打たれます。
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