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映画・演劇のレビュー

いちびり一家『おもかげ蜥蜴』

2013-02-07 21:21:15 | 演劇
歌劇というスタイルを取りながら、その中で、演劇ならではの世界を見せてくれるいちびり一家の久々の新作は、とかげのしっぽに導かれて、記憶と忘却を旅する物語だ。

舞台上をさまざまな人物が右往左往していき、そこにいくつものお話が重層的に積み重なり、失われた記憶を求める冒険が描かれる。とかげたちの歌声からスタートして、ある研究所での、お話へとスライドしていく。彼らは帰る道を失った。それを探すために日夜研究に没頭している。幾度となく動物実験を繰り返すのだが、そのせいで、もう実験で使う動物は底を尽きた。なのに、未だにうまくいかない。そこに一人の少女がやってくる。

同じところを、ぐるぐるまわって、入れ替わり、立ち替わり、いくつもの同じようなドラマが、くりかえされていく。すべては、失われた記憶のせいだ。お話はそこにつながるのだが、失われているのだから、つながりようもない。

パパとママが、新居の予定地を見るため、やってくる。だが、途中で道の迷い、さらには娘のきーちゃんを見失う。新居の建つ予定地には見知らぬ女がいる。ママは彼女をパパの浮気相手ではないかと疑う。

きーちゃん、朝子、小夜子、と(パンフに書いてあったので、書ける)何人もの子供たちを巡るいくつかの風景が点描されていく。それらのエピソードは重なりあったり、離れたりしながら、すべては彼らの原点である家へと帰ってくる。その失われた記憶を巡るドラマへと、収斂されていくことになる。同じところをぐるぐるぐるぐる回り続けながら、帰るべき場所を求めて、永遠のように繰り返される時間が描かれる。あげくは、舞台美術までが回って、表が裏になり、その逆も。さらには、その空間すら、トランスフォームしてしまって、すべてが同じものになる。

このワクワクするような堂々巡りの物語は、どこにもたどりつかないまま、クライマックスを迎える。どこかにたどりつくためのドラマが、本来の物語なのだが、この作品はどこにもたどりつかないドラマを、そのことこそが物語なのだ、と言わんばかりに堂々と見せきる。そのことが、こんなにも心地よい。

失われた子供時代。もう戻れない思い出の沁み付いた懐かしい父と母のいた家。新居の予定地を見に行き、迷子になり、自分の原点になる家すら見失う。父と母。彼らの娘であるさーちゃん。彼女の冒険の物語がめくるめく万華鏡のように、さまざまなドラマの色を変え、姿を変えて展開していく。まるで魔法のようなお芝居だ。作、演出を担当した坂上さん、面目躍如の力作である。




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