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映画・演劇のレビュー

『春待つ僕ら』

2020-04-05 08:16:09 | 映画

この手の青春映画は好きだったから、以前はちゃんと見ていたけど、最近は食傷気味。映画のレベルも落ちたし、いろいろ作りすぎて、もうネタがない。10代後半のキラキラした時間を愛おしく見つめる映画を通して、自分の過去を振り返ることや、今を生きる子供たちにある種の指針を示すことができるような映画は好ましい。ただの夢物語でもいい。現実はそんな甘くはないことは誰だってわかっている。だから映画の中だけでも幸せでいられたならいい。そんな映画があっていいし、映画というもの自体が本来そういうものだ。昔は子供たちをなめたような映画も時々あったけど、それは淘汰された。現実を美化した上で、それでも見る夢。それが一時期はやったキラキラ青春映画だった。

さて、時代は過ぎた。ブーム以降のこのジャンルの停滞は明らかだ。そんな中、この映画は地味に公開され、目立つことなく消えていった。同じ土屋太鳳主演の大ヒット作『オレンジ』とは時代が違う。だが、小粒で地味だけど、この映画は実に的確にこの手の映画に必要な条件を満たしている。設定はあり得ないくらいに夢物語だ。こんな現実は小学生でも信じないだろう。でも、わかったうえでしているから嫌味にはならない。嘘くさいと、しらけることもない。心地よいメルヘンとして、軽く受け止め、その軽やかさに身を任せればいい。『ツナグ』や、さまざまな映画を丁寧に作る平川雄一朗監督だから、信用できる。

地味で引っ込み思案の女の子が、高校ではなんとか、友達を作ろうと努力するが、なかなか難しい、とかいうようなところからスタートして、イケメングループの仲間(アイドル?)になる、とか。大好きだった幼なじみ(女の子だと思っていた)との再会とか。イケメングループのひとりとつきあうようになるとか。ふたりの男の子から好きだといわれて悩むとか。とか、とか、いう感じで、いろいろありえないような幸運がやってくる。

絵空事満載なのだけど、映画はそれを真摯に描くから、腹は立たないし、気持ちよく見ていられる。現実を描くのではなく、理想を描く。夢の世界で遊ぶように。2時間弱映画の世界を満喫できたらいいのだ。この基本の基本のような映画が初心に戻って作られたことは、それなりに意味があろう。清潔でピカピカしている高校で、バスケ部の仲間たちと、なぜか彼らに好かれる少女。ささやかな夢の実現。高校に入って、夢に近づいた少女が、自分の春を待つ。この映画はタイトルが示すように、これはやがてくる春を楽しみに待つ子供たちへのメッセージなのだろう。「あなたの人生は輝いている。だから、思いっきり青春を楽しんで欲しい」、という。

この春進学する子供たちの未来に栄光あれ。(こんな状況の今だからこそ、敢えてそう言ってあげたい)

 


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