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映画・演劇のレビュー

『ダークシャドウ』

2012-05-15 21:40:00 | 映画
 1972年なんていう微妙な時間によみがえってしまうヴァンパイアは間抜けだ。その200年のタイムラグにカルチャーショックを受けるヴァンパイアをジョニー・デップが散々笑わせて見せてくれる。これが現代に甦ってしまったりしてたのなら、ここまでは笑えない。それどころか少しもおもしろくはないはずだ。この40年というなんとも中途半端な過去がいいのだ。ジョニーが自分を200年も棺桶に閉じこめた魔女と戦うコメディー映画。いつものようにジョニーとティム・バートン監督のコンビは、リアルではない世界で、大はしゃぎする。ゴシックロマンの世界で、好き放題の大騒ぎ。

 原型となった昔のチープなTVドラマのテイストを大切にして、そのくせそれを超大作としてリニューアルさせる。こんなバカな話にここまでの予算をつぎ込んで、嬉々として楽しんでいる。だいたい72年という設定にすることで、どれだけ無駄なお金が出て行くことになるのか、そんなことには無頓着なのだ。きっとオリジナルが72年だったから、とか、(要するにこのTVが作られた頃の「現代」だ!)そんなたわいもない理由なのだろう。そこにはきっと深い意味なんか絶対にない。なのに、このいたずらにこだわる。というよりもその設定で楽しんでいるだけなのだ。

 重ねて言うが、別にそれが重要なことなんかではないはずだ。(深読みしてこの70年代こそが描きたかったのだ、なんていう人がいれば、それはそれでおもしろいのだが、明らかにそういうわけではない!) ただ単なるくすぐりでしかないのだ。だが、そんなことのためだけに、湯水のようにお金を注ぎ込むのだ。とことんこだわり抜いて、ただ笑わせるだけ。映画自体には何の奥行きもない。

 ただ、この小さな町のドタバタ騒動は、見ていてとても楽しい。村中がてんやわんやの大騒動。相変わらずのひっくり返ったおもちゃ箱映画だ。200室もあるお屋敷(というか、お城だ!)の壮大なセットもいい。これを縦横に使い、お化け屋敷のようなワクワクを提示する。いろんな仕掛けを施して遊ぶ。豪華で魅力的なキャストもいい。彼らの競演も贅沢だ。

 確かにこれは、呆れるほどにたわいもない映画なのだが、僕等はこんな映画を待っていたのだ。空疎な大作ばかりのアメリカ映画界から、こういうバカな映画がやってきたのが嬉しい。娯楽大作はこうじゃないとダメだ。これは2時間の贅沢な至福。

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