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映画・演劇のレビュー

『王の涙 イ・サンの決断』

2015-11-03 19:39:04 | 映画
こんなにも緊張感のある映画はなかなかないだろう。最初から最後までハラハラドキドキの連続だ。決して派手な映画ではない。

李氏朝鮮、第22代国王イ・サンの暗殺計画を描くのだが、決行までの20時間をあらゆる方面から描いて見せる。複雑な人間関係を説明なしでどんどん見せていく。問答無用の展開だ。最初は何が何だか、なのだが、複数の人物たちのそれぞれの暗殺までのカウントダウンを通して、彼らのそれぞれの想い、思惑が交錯する。イ・サンの周囲の人物模様、宮中の人間関係。高まる緊張。

映画は夜明け前から始まる。午前3時半から20時間。イ・サン暗殺計画実施まで。イ・サンが黙々と体を鍛えるシーン。その姿が孤独で、この映画のすべてを言い表している。これまでも何度となく命を狙われ、王であるにも関わらず、周囲の誰をも信頼できず、正しい道を歩むことが、周囲の反感を買い、それでも、自分の道を貫かんとする。権力争いの醜いドラマの構図を通して、生きることの困難をこんなにも、リアルに切実に描く。

18世紀の朝鮮のお話で、偉人伝で、というようなパッケージングに囚われないほうがいい。これは、そんなレベルではない。もっと大きなことをちゃんと描いた映画だ。どうしたら、民の信頼を勝ち取ることができるのか。国を正しい方向へと導くためには何が必要なのか。

まず、今日1日を生き延びることだけを考えたならいい。明日はどうなるか、わからないし、だいたい明日がくるかも、わからない。大袈裟ではなく、切実にその通りの状況にある。ぎりぎりで生きて、なんとか、この20時間を乗り越えるまでのドラマだ。名君として慕われるようになるイ・サンの運命の20時間なのだが、彼のことを何も知らないでこの映画を見た僕はただ、圧倒されるばかりだ。

ここに何が起きていて、彼がどんな状況にあって、どうなるのか。まるで、わからないまま、映画を見る。ドキュメンタリータッチで、すさまじい人々のドラマが描かれていく。そういう意味ではこの夏見た原田眞人監督の『日本のいちばん長い日』もこれに近いか。だが、映画の完成度は圧倒的にこれのほうが上だ。あれはあくまでも群像劇になっていたけど、これはあくまでも、イ・サンの視点からずれない。その差は大きい。あの映画は今更ながら、昭和天皇を主人公にすべきだった、と思わせる。それくらいに、この映画のインパクトは強いということだ。

アクションシーンは決して多くはないけど、このすさまじいスペクタクルに圧倒される。昨年末に公開された。こんな映画があったのか、と驚かされる。




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