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映画・演劇のレビュー

スプリングバス『アクトレス』

2007-04-22 07:10:07 | 演劇
 とてもたわいのない芝居だが、作り手が観客を舐めているのではなく、このどうでもいいシチュエーション・コメディーを精一杯に見せようと努力しているから、見ていて腹は立たないし、嫌な気分になることもない。それどころか微笑ましく、彼女たちを応援してあげたくなる。

 劇団赤鬼の4人の若手女優たちがユニットを組んでの自主公演である。普段は舞台であまり目立たない(目立つボジションを与えて貰えていない)らしい彼女たちが、あてがきのもとで、しっかりスポットライトを浴びて主役を思いっきりのびのび演じている。決して上手いわけではないが、上手いとか下手とかいう次元の問題ではなく、演じるということが大好きで、舞台に立っていることの喜びを身体全身で表現しようとしているのが素晴らしいのだ。

 しっちゃかめっちゃかのお話には、何の意味もない。しかし、笑って見ていられるし、何よりも演じている4人が、精一杯頑張っていて、幸せそうなのが伝わり、見ているこちらまで、いい気分にさせられる。それだけで、充分満足して見れる。

 この芝居にとって何が大事なのかを演出家は(演出は彼女たちの先輩女優である山口博美さん)よく心得ている。観客の善意に寄りかかって、甘えただけの新人公演にはなっていないのが偉い。きちんとしたエンタテインメントとして見せるだけの力量を作品が示せている。入場料を取る以上は、これは最低のマナーである。そんなことも解らない芝居も確かに存在する。

 当然、決して贅沢とはいえない舞台だが、チープではなく、この芝居に最低必要なものは、ある。それはスタッフワークも含めてである。何度も繰り返される主題歌も、可愛らしくて、この芝居にぴったりだ。

 憧れの宝塚歌劇団と間違えて入団したのは《あからづか歌劇団》というあきらか怪しい小劇団で、そこに入った女の子(塩田瞳)を中心にして、彼女と、ここの劇団員たちの1日を描く。話自体は先にも書いたがたわいなく、何の意味もない。ただ、ラストまで見た時、「演じることは楽しい」というこの芝居のテーマが、4人の若い役者達の気持ちとシンクロして確かに伝わってくる。そのことが大切なのだ。そして、それがこの芝居の存在意義でもある。何のためにこの芝居を作ったのかが、こんなに明確な芝居も珍しい。

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