土橋淳志が作・演出。なんだか壮大なお話で、チラシも凄い。丸い。富士山の北西に広がる青木ヶ原樹海。その地下数100メートルにある大空洞・アガルタが舞台だ。そこでは、ナウマンゾウ祭りを明日に控えて準備に大わらわ。前回『幕末コンセプト』の京都に続いて今回も、非日常の場所を舞台にして、そこにいる人たちとやって来た人たちの話。そこでは非日常のイベント(祭り)を控えていつもと違う時間が流れる。
今回は実にシンプルなストーリーである。だけどそれが根源的な問いかけにつながる。そんなドラマを支えるサカイヒロトの美術も一見シンプルだけど手が込んでいる贅沢な空間。年に一度の祭りはナウマンゾウを槍一本で狩るという野蛮な行為で命懸け。現代においてこれはあり得ないけど先祖代々の祭りだから引き続き行われる。
富士山の地下にある世界で暮らすアガルタ人。今では観光地化している。そこにあるペンション。フロントにある玄関ロビーが舞台となる。人口は激減して、かっては数万人いた人たちも今では数千人に。祭りの存続も危うい。
荒唐無稽な設定をしているが、もちろん派手なエンタメではない。祭りも直接は見せない。何があったのかも間接的に描く。アガルタ人と地上人の確執もさらりと描くことに止める。しかし、確実に変わっていく。これはその変わり目となる日を描く。
エピローグの30年後、主人公のふたりの子どもたちのエピソードがさりげなく核心を描く。変わらないことと変わってしまったこと。僕たちの生きる世界も知らない間に変わっていく。外国人だらけの心斎橋を歩いているとここはいったいどこなんだろうと思う。
アガルタの大王が、地上人と結婚することを願うことに象徴される未来から、地上人と結婚した主人公の子どもたちがここにやって来て今の祭りを見るラストまで。土橋さんは温かい目で歴史の狭間を静かに見守る。