習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『orange オレンジ』

2015-12-17 19:23:59 | 映画

この手の青春映画は食傷気味で、もう見る前からお腹いっぱい。しかも、映画本編の前の予告編では、来年公開の漫画原作の同じような学園物の青春映画が連発。そのオンパレードにはげっぷが出る。そんなこんなで、いささかシニカルな目で見始めたのだが、これがなんとも実に面白い。これだから止められない。もしかしたら、と期待していたのだ。当たりである。よかった! 

今回これを見たいと思った決め手はその上映時間だ。通常ならこの手の映画は2時間に収めるはずなのに、これはなんと2時間19分もある。どうしてそこまで長くなったか。いや、それだけの上映時間を許すのはなぜか。それが、まずは気になった。なるほど、と思わせる作り方だ。

2015年が現在の時間として設定される。そこに2025年の未来から一通の手紙が届く。10年前の私へ。高校2年の春、転校生が私たちの高校へやってくる。彼と過ごす5人の男女の友情物語。SF的設定はあるけど、そこがポイントではない。精一杯今を生きることの大切さを描く。ある種の仕掛けがミステリー・タッチになり、この作品の単調になりそうなお話に変化をもたらす。どこにでもある高校生活のスケッチを追いながら、そこにとどまらない。

それにしても古典的な青春映画だ。こんなにも、もどかしいヒロインはめずらしい。今時の女の子ではなく、何十年も前の昔からやってきたような古典的ヒロイン。格調高いクラシック映画のようなたたずまい。舞台となった松本の風景もそれを加速させる。懐かしい昔の風景を思わせる。田舎に行けばこんな高校生活が今もあるのかも知れないな、と思う。(できることなら僕もそんな世界に居たい!)

ヒロインだけではない。男の子も今時の男の子ではない。自分の罪をいつまでも悔やむ。一直線で、まじめで、壊れやすい。だから、彼女はなんとかして彼を支えたいと思う。今時あり得ないクラシックさ。だから、ここには、はやりの壁ドンなんかないし。手も握らないし、キスシーンすらない。(まぁ、それは嘘。そのくらいはあるけど、でも、それをこんなにも、大切に丁寧に描くのだ。何よりも貴く「大事なもの」として描く、その姿勢が素晴らしい)

自分たちの命を大切にする。今、ここで生きている時間を愛おしむ。過去は変えられないけど、今を大切に生きたなら、きっと未来は変えられる。こうなるはずの未来を変えるため懸命に生きる少年少女たちのドラマを、たくさんの子供たちが応援している。劇場を満杯にしている高校生たちも愛おしい。そんな気分にさせられる映画だ。もちろん、突っ込みどころは満載である。でも、そんな些細なことは気にしない。これはこの冬、必見の1作。

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