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映画・演劇のレビュー

金蘭会高『ジャップドール』

2013-08-03 23:22:36 | 演劇
 11年振りの再演だ。スペースゼロ演劇大賞を受賞した傑作である。といっても、オリジナルキャストによる再演ではない。当然それはありえない話だ。高校の演劇部は毎年、メンバーが変わるのだから、同じ座組みは絶対ない。(もし、それが出来たなら、それはそれで凄い話だが)

 これまで3度上演している。金蘭ならではの作品なのだ。大人数の人海戦術で見せるこのスペクタクルは、部員が、それだけ揃わなくては作れない。もちろん数さえ揃えたらいい、というわけでは当然ない。統制のとれたアンサンブルプレーは、メンバー全員の意思の疎通がなければ不可能だ。全盛期の金蘭だからこそ、出来た。今、さすがの金蘭でも部員が減少して、もう不可能ではないか、と思っていただけに今回のHPFのラインナップを見て、驚いた。そして、これだけはぜひ見たい、と思った。今、金蘭と山本篤先生が、あの作品をどう見せてくれるのか、これを見ないで、今年のHPFは語れないのではないか、なんていう意気込みで、劇場に向かう。

 でも、それと同じようなことを思いながら、先日追手門の『唇に聴いてみる』も見ている。今、これらの作品を再び上演する意義って何なのだろうか。きっとそれはこれらの作品のテーマとなるのではないか。

 ここからは、更なる余談だが、追手門の坂本先生が、今年、あの作品に挑戦し、山本先生がこの作品をやる、と知ったとき、なんだか、HPFが終わるのではないか、と心配になった。もちろんそんなはずもない。今年もHPFは盛況だったし、新しい才能がここから多数出ている。改めて高校演劇はすごい、と思わされた。だが、金蘭と追手門が中心になってHPFがある、という時代は終わったのではないか、と改めて実感した。それは両校のレベルが落ちた、というのではない。そうではなく、それぞれの演劇部が力をつけてきたからだ。しかも、彼らは自分たちの表現をしっかり自信を持って、提示する。金蘭や追手門のまねをするのではなく、オリジナルな発想で作品作りに挑む。まさかこんな時代がくるなんて、思いもしなかった。

 今年は、両横綱高の大作を堪能し、それ以外の群雄割拠する劇団の作品を5作品、堪能した。できることなら、もう少し見たかったけど、それは言っても詮無いことだ。だが、29校に膨れ上がった今年のHPFから、僕が見た7作品はいずれも興味深いものだったということは事実だ。その確率の高さは凄いではないか。

 ようやく本題に戻る。金蘭である。ドーンセンターをほぼ満杯にして公演は行われた。この芝居はこういう大きなホールでの上演が似合う。でも、それだからこそ、反対にスペースゼロでの上演は凄かったのだ。狭い舞台から、役者たちがこぼれ落ちるくらいで、ドキドキした。溢れる熱気が同じように満杯の客席と連動して、ただならぬ興奮が劇場を包んだ。あの感動は忘れられない。あれはただ事ではなかった。だが、時代は変わった。今、あれをやられても、きっと感動はしない。反対に冷めてしまうかもしれない。では、今、この芝居をする意味はないのか、と言われると、そうではない、とすぐに言える。

 時代は変わっても、変わらないものはある。そんな当たり前のことを実感させてくれるのが、今回の『ジャップドール』だ。今を生きる子供たちは、この作品の持つ猥雑とした世界を嫌うではなく、反対にとても生き生きとこんな世界を演じる。彼女たちは楽しんで演じている。だが、それはただ役を楽しむのではなく、この時代の空気を楽しんでいるようなのだ。女子高生に「おまんこ」とか、言わせるこの芝居は教育上どうか、なんて誰も言わない。そんな表面上の瑣末を問題にする馬鹿な大人はこの芝居を見ない。本気で自分たちの置かれている状況を精いっぱい生きている彼女らの姿は美しく、悲しい。

 どんな時代にあっても人は生きなくてはならない。そして、ぎりぎりのところで、戦う。それがこの作品の力なのだ。差別の問題や、搾取するものとされるもの。日のあたるところに出ていきたいと願うこと。そこがどんなに理不尽な場所であろうとも自分たちの場所を大切にすること。あれもこれもいろんなことがこの作品にはぎっしりとつまっている。その混沌をそのまま舞台にする。どんなに時代は変わろうとも、人はそこで全力で生きようとする。その熱いエネルギーが今回の作品にも、確かに受け継がれている。見終えて深い満足感に包まれた。



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