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映画・演劇のレビュー

『三国志英傑伝 関羽』

2012-01-29 22:00:36 | 映画
 いくらなんでもこのタイトルはないだろ。まるでこの映画で商売をする気がない。これでは安物のアクション映画でしかない。三国志を題材にした歴史大作であることはよくわかるが、それってビデオスルーの時ならいざ知らず、劇場公開時にはまるで役にはたたない。もっとこの大作をちゃんとアピールするような重厚なタイトルを配給会社には考えてもらいたい。まぁ充分な宣伝費もなく、一応劇場公開したけど、本当はビデオスルーでもいいよ、という考えが見え見えのやる気になさ。そういうのが確実に伝わる。公開2週間目の最終回、単館公開なのに、(大阪ではここでしか上映していない、ということだ)劇場には4人しか客はいなかった。

 これは昨年の中国映画の超大作である。きっと本国の劇場では熱狂的に迎えられたことだろう。「アジア最強のアクションスター」ドニー・イエンが、チアン・ウエンを相手役に迎えた超大作だ。監督は『インファナル・アフェア』シリーズのアラン・マックとフェリックス・チョン。これに期待しない方がおかしい。ジョン・ウーの『レッドクリフ』にはあれだけ熱狂したはずの日本人なのに、もうその三国志熱は醒めた。今更三国志の映画化なんて誰も興味ないのだろう。だが、天下のドニーが自分のやりたいことのすべてをこの1作に込めたのである。これを見ないで何を見るというのか。

 実を言うと、最初は、もしかしたら、つまらないかも、と一瞬嫌な予感もした。このタイトルをわざと付けるくらいである。配給会社には自信がなかったのだ。しかも映画自体も、これはただのマイナーなB級映画なのかも、と思わせる始まりかた。ピンポイントで三国志を描くのはその壮大なスケールから考えて当然のことだろう。ジョン・ウーですら、全貌を描くなんて愚を犯さなかった。だが、あまりに些末に拘ると映画自体が委縮してしまう可能性もあるから難しい。

 ここでのこだわりは「関羽」という英雄である。それをドニーという英雄に演じさせることにある。簡単そうに見えて実は難しい。ただのヒーローアクションにはしないで、スケールの大きい歴史大作であり、人間ドラマである、そんな作品にしたい。だが、ドニーの魅力をふんだんに織り込んだ作品にもして、お客さんに、この娯楽大作を存分に味わってもらいたい。ということで、ハードルは思いの他高い。

 まず、チャン・ウエンの起用は正解だった。彼が曹操を演じたことで映画は重厚なものとなった。曹操がこの映画の主役である、と言ってもいい。ただの悪役ではない。彼が考える天下の収め方にリアリティーがあるから、このお話は説得力を持った。実際の主演であるドニー・イエンを差し置いて上海映画批評家大賞で最優秀主演男優賞を受賞したのも当然の結果であろう。

 彼は中国を統一する野望を抱く策士ではなく、人々の平和を祈り、彼らを守るため、中国の統一を思う。普段は農民と共に畑に出て農作業に従事する。自分の領土の民百姓から信頼されている男として描かれる。驚くのはそれだけではない。この映画には、漢の皇帝もまた、曹操と一緒に農作業に勤しむシーンが描かれるのだ。関羽はそんな2人を見て、心動かされる。この前半部分はおもしろい。曹操がとことん関羽に拘るのもいい。自分の家来たちを蔑ろにしてまで、捕虜である関羽を優遇し、自分の臣下に入るように願う。関羽の力を高く評価し、彼と共に中国の統一を成し遂げようと思うからだ。

 映画は残念だが、全体のバランスが悪く、この後、後半に入るとドニーのアクションシーンを串団子にして見せるという構成になる。北に逃げる彼の前を様々な敵が立ちはだかり、それらの敵との一騎討ちを見せる。曹操との確執とか、劉備への想いとか、もちろん劉備の夫人である綺蘭への密かな想いとか(これは、つまらないが)いろいろあるはずなのだが、それらが映画全体を構成しない。ただの枝葉にしかならないのは、拙くないか。脚本自体に不備がある。スケールの大きい人間ドラマのはずなのに、後半ただのB級アクションの体裁をとる。これではなんとももったいない話だ。

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