『キック・アス』のマシュー・ヴォーン監督最新作は、より過激で華麗なスパイアクションだ。ばかばかしく、でも、結構シリアスな展開。コメディではなく、昔の007よりは、まじめで、今の007よりは軽い。(もちろん、ここでいう007とは、ショーンおじさんのではなく、前者はロジャー・ムーアで、後者はダニエル・グレイグ)
悪役はとことん、悪くて、笑える。サミュエル・J・ジャクソンは凄いわ。あの人は手を抜くのではなく、本気出すのでもなく、なんだか自然体でこの悪もんを演じている。しかも、彼の片腕となる(腕ではなく足に特徴があるのだが)スーパーガール、ガゼルを演じるソフィア・ブテラ最高。怖すぎ。
こういう絶対悪と向き合う主人公をなんとコリン・ファースが演じるのだ。渋すぎ。スパイなのにメガネ。というか、メガネが世界を救うというコンセプト。英国紳士のスパイが華麗に過激なアクションをこなす。かっこいい。だが、それだけではない。
なんと本当の主人公は彼ではなく、彼がスカウトした不良少年エグジー(タロン・エガートン)。こういう展開はよくあるパターンで、コリンが途中で死んでしまい、そのあとをエグジーが引き継ぐという黄金のパターン。前半のスパイ学校の訓練もいい。2時間9分ノンストップで、映画3本分見た気分にさせられる。スマホのよる人類抹殺計画はあほらしいけど、(こういうところはロジャー・ムーアの007風)それをあそこまで残酷にやると、反対に笑える。わざと「R15+」の描写を延々と見せる悪趣味もマシュー・ヴォーンらしい。
最後の最後まで楽しませてくれるサービス精神も旺盛。思い切り楽しんでもらおうという作り手の誠実さがうれしい。1本の映画を存分に堪能できる。こういう娯楽活劇を待っていたのだ。この夏最大のヒットだったトム・クルーズの『ミッション・インポッシブル ローグネーション』に匹敵する、と言えば言いすぎか。でも、まるで負けてないことは事実だ。楽しかった。