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映画・演劇のレビュー

『素晴らしき哉、人生!』

2022-04-22 11:41:06 | 映画

この映画史に残る名作をなんと初めて見た。たまたまBSで放送していたので、見たのだが、やはり凄い映画だった。昔の「名作」といわれる映画は、時に今見ると古くて、通用しないものも多々あるけど、これは今なお新鮮で、感動的な作品だ。時代を経ても色褪せることのない秀作だと思う。2時間10分と少し長いのに、まるでそんな長さを感じさせない。あっという間だった。1946年公開のフランク・キャプラの傑作。

冒頭から大胆で、軽快。テンポは速い早い。なのに、なかなか本題である天使のお話にはならない。忘れていた頃にようやくその翼のない天使が登場するのだが、ここからラストまでのお話の後半(時間にするとたぶん40分くらいか。ということはここまでで1時間半!)がまた素晴らしい。お話自体はよくある展開なのだけど、ドキドキさせながら、(雪降るクリスマスのお話なのに)見ていると心が温まる。そして、ちゃんと「大事なものは何なのか」を教えてくれる。言葉にして「お金ではないよね、」なんて言われるとなんだかシラケるし、鼻白むけど、こういうふうに描かれると納得してしまう。見事だ。

主人公ジョージを演じるジェームス・スチュワートが素晴らしい。こんな絵に描いたような「いい人」がいれば世の中はきっと素敵だろう。でも、現実はあの富豪のヘンリーのような悪いやつばかり。8000ドルのネコババなんて許せない、と一緒に見ていて妻が憤慨していたけど、現実世界はそんなことばかりだろう。(この映画のラストを見て、先日見たばかりのファルハディの『英雄の証明』を思い出していた。あの主人公は拾ったお金をちゃんと返していたけど、ね。)

彼はとても「いい人」だけど、実は、自分の好きなように生きられなかったという悔いを抱いて生きている。でも、彼は後悔はしていない。これもまた自分の人生だ、と思っている。でも、クリスマスの日に、8000ドルを失い、生きる望みを失くす。子供に手を挙げるシーンがある。いくらこんな状況になったとはいえ、子供には罪はないはずなのに、彼は子供に当たる。このシーンはちょっと衝撃的だ。なんとなくリアル。彼が抱える闇が露呈したようで。その後、すべてを失った彼は、川に飛び込み自殺しようとする。ここからが怒濤の後半戦の40分。

心温まるお話、なんだけど、この映画が素晴らしいのは、あり得ない理想を本気で描く姿勢にある。現実はこんなふうにはいかないけど、こんなふうならいいね、ではなく、これを信じる、という覚悟がちゃんと描かれてあるからだ。素直に感動した。


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