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映画・演劇のレビュー

『ツリー・オブ・ライフ』

2011-08-26 20:23:27 | 映画
 『シン・レッド・ライン』『ニューワールド』以来のテレンス・マリックの新作である。というか、40年近いキャリアなのに、これでまだ5作目である。超寡作のこの巨匠が、しかも、今回初めてこんな普通の人を主人公にして、その日常を描く作品を作る。それだけで期待は高まるばかりだ。しかもカンヌでは最優秀作品賞(パルムドール)を受賞した。

 そんなこんなの期待の新作だったのだが、ずっこけてしまった。なんじゃ、これは、という出来である。唖然として、空いた口がふさがらない。だが、前半の展開から充分期待できた何の解決にもならないあのラストを見終えて、実はがっかりではなく、なんだか安堵したのも事実だ。マリックのひとりよがりは、それはそれで一貫性があるからだ。

 これは2時間18分に及ぶ壮大な映像詩である。クーブリックの『2001年宇宙の旅』を思わせる。そういうものだと最初から思って見ていれば腹も立たない。頭でっかちで独り善がりの映画は、これでは主人公たちの本当の気持ちすら伝えられない。成長した(というか、もう初老だが)息子をショーン・ペンが演じるのだが、彼が何を思い、今ここで生きているのか、まるでわからない。ただ、苦虫をかみつぶしたような顔をして、立っているだけ。セリフもドラマも用意されてないし、都会のビル街でふらふら歩く姿が挿入されるだけ。

 ドラマは彼の少年時代にある。映画は家族との日々を断片的に見せる。そこにはいつも父(ブラット・ピット)が権威として立ちはだかる。自分勝手な父への反発が描かれるのだが、そこにわけのわからない人類創世のドラマ(恐竜とかまで出てくる!)のような映像が唐突に挟み込まれていく。ナレーションの多用はいつものテレンス・マリックなのだが、それにしても、今回はここまで日常的なお話なのに、こんなにも哲学的というには、なんだかあまりに陳腐な構成で、唖然とするばかりだ。ひとつひとつのドラマは興味深いし、例によって映像は美しいのだが、それにしてもこのぶっ飛んだ構成はないだろう。いろんな意味で驚かされる。必見の映画だ。でも、他の4作品が好きな人には勧めません。


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