杉本博司の展覧会がやや欲求不満に終わったため、Amateur d'art 氏がArakiを紹介した記事にあった太田美術館のことを思い出し原宿まで歩くことにした。ビルの中を通り抜け、青山墓地のあたりを過ぎたところだろうか、邸宅が美術館になっているような雰囲気の建物が見つかった。近くに寄ってみると根津美術館であることがわかり、躊躇せず入ることにした。こういう思いもかけない出会いにはいつも心ときめくものを感じる。その予感は今回も裏切られることがなかった。
入るとすぐに庭園があり、六本木ヒルズの人工的な世界から来ると一気に心を和ませてくれる。美術館の中に入る。筑前高取焼の展覧会をやっていた。そのせいだろうか、ほとんどの女性が和服を着ており、中には和服姿の男性も見かける。これほどの和服姿を見たのは久しぶりで、展示品を眺めながら話し込んでいる様子が至るところに見られ、新鮮でなかなかよい。それと西洋美術の展覧会で感じる、どこかお勉強をするという雰囲気はなく、われわれの日常に溶け込んだ品を鑑賞するためか気負いを全く感じさせない。自然なのである。日本人にはこちらがよく合っている、地に足がついているという感じが私をゆったりした気持ちに導いてくれる。そのほか、日本や中国の仏像、青銅器、それに掛け軸にも印象に残るものがあった。
それから館外に出て先ほどの庭園の中に入る。木が高くのびているせいだろう、一瞬自然の中に吸い込まれるような感覚を覚える。下に降りていくと淀んだ池があり、素晴らしい紅葉が目に飛び込んできた(今日の写真)。この写真を撮っている時に実際の風景と写真を比べてみた。普段は違和感をほとんど感じないか、むしろ写真の方が美しく感じることも多いのだが、この景色に限ってはついにその美しさをとらえることができなかった。この景色を見ていて体が吸い込まれてどこかに消えていくような感覚を味わう。自分が眼だけになるというあの感覚である。
いくつかの茶室ではお茶会が開かれていた。老若男女が和服姿でこの景色を眺めながらお茶をたてている。外から見ていると和やかな雰囲気に溢れている。和服姿でお茶会に参加するのも一興ではないか。そんな思いとともに深い秋の一日を味わわせてもらった。
----------------------
ある休日の午後(I)
ある休日の午後(III)
ある休日の午後(IV)