ちょっくら江戸まで
江戸っ子の私は、時代小説(とりわけ江戸もの)が好きだ。
江戸は過去ではなく、いつでも東京の裏側に在るので、その気になりゃあ出はいりは自由なのである。
いわゆる「一平二太郎」の藤沢周平、池波正太郎、司馬遼太郎の作品を四年にいっぺんくらいのサイクルで読み返す習慣は、かれこれ二十年近くも続いている。
もちろん逢坂剛、佐伯泰英、宮部みゆきをはじめとする現役作家の江戸ものも大好物だ。
これらのお宝小説たちに本格的に没入したくなる頃、必ず私が訪れるのがここ“深川江戸資料館”である。
大江戸線か半蔵門線の「清澄白河駅」から歩いて三分。清澄庭園からもほど近い。新宿線「森下」や東西線「門前仲町」からも歩ける距離だ。入場料は300円。休みは月曜(第二第四)と年末年始のみ。
まるで回し者みたいな懇切丁寧ガイドだが、ここがつぶれてしまうと私が困るので勢い宣伝に励むことになる。
私のお目当ては、江戸の町の原寸大セットである。
お江戸の長屋やいろんなお店や屋台などが、それなりのスケールでやたらリアルに並んでいるのだ。
んじゃ、ちょっくら江戸まで行ってみっか。
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タイムマシーンでここ大江戸まではひとっ飛び。いけねっ、猫にめっかっちゃったよ。
大胆にも長屋の井戸端に着地する。
んで、夕暮れのお江戸をのんびりぶらつく。
手ブラじゃなんだから、米を一升買い込んで、
ついでに大根その他を買い込んで、
おみやげ担いで八っつぁん宅に上がり込む。
八・熊・留の三公連れ立ち、天麩羅屋台でドンチャカ呑んで、
仕上げに蕎麦屋でイッパイやって、長屋に帰って高イビキ。
江戸の夜明けに投げキッス、十秒後には東京だ。
とまあ、実際には小一時間の妄想旅行なわけだが、こんなんで江戸っ子モードがすっかり出来上がる。
で、ここから約ひと月、存分なリアリティを体にタメながら大好物の江戸ものにかぶりつくことになる。
それにしても、オレってほんとに安上がりだよなあ。
『藤沢周平/海鳴り』 文春文庫
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