フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

分裂の効用 [183]

2007年01月28日 | 散歩の迷人






         分裂の効用

 

 





 元旦以来の休暇をとって、久々に文京区は小石川・後楽園を歩く。

 「天下の憂いに先立って憂い、天下の楽しみにれてしむ」

 “後楽園”の名は、中国・宋時代の『岳陽楼記』から採られたのだという。
 何たるストイック!!
 まさしく理想的なリーダー像ではないか。
 すでに読者は、こうした志と私という人が正反対であることに気付かれておられるが、私としてはそれに気付かぬふりをしながら書き進めたい。

 


 

 「週に一度くらいは休んだほうがいいよ。お願いだから」

 互いにバツイチの割れなべに綴じぶた。
 すでに十年を暮らす私の連れ合いは、「ずっとパセオを続けてね」ということ以外に、私に願い事をしたことがこれまでただの一度もない。

 そんな彼女が私にこう云ったのは正月のことだった。
 ある意味私以上に仕事に精を出す九歳下の連れ合いだが、若干くたびれ気味の私は素直にそれを聞き入れ、昨日土曜は朝もはよから大江戸散歩へと繰り出した、というわけだ。

 「休みなんだから、あんまり張り切りすぎないほうがいーよ」

 ちなみに出掛けにこう云われた。
 私の単細胞性格を知り尽くしているのだ。

 





 この世にも美しい回遊式日本庭園“後楽園”を完成させたのは、そう、あの有名な水戸の黄門(水戸三圀)さまである。
 現在もちょいちょいテレビに出てくるのでおそらくご存命なのだろう。
 『大日本史』の編纂事業が有名だが、私個人としてはああした考え方には残念ながら昔も今も付いてゆくことは出来ない。

 もの凄くストイックで思い込みの強烈な人物、というのが水戸三圀に対する私の個人的印象で、ここ後楽園を歩いているとその清らかな風景の中に、そんな黄門さまの峻烈さの象徴みたいなものを発見することもままある。






通天橋]

 

 下界を見おろす高所に架かるあの朱塗りの橋(通天橋)は、黄門さまご自身の崇高な志ではないか。
 三十年ほど前にはじめてここを訪れたときに感じた直観はいまも変わらぬままだ。






[ブラームス/交響曲第三番]ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベル
リン・フィルハーモニー管弦楽団(1949年ライブ録音)

 

 さて、本日のBGMは、まさかのブラームスの交響曲第三番、通称ブラ3である。シンフォニーをあまり聴かない、しかもブラームスは年に数回しか聴かない私である。
 ああ、それが何だかわからんが、自分の中に変化が起きているのだな、ということがこれまでの経験から察知できる。その結果が大失敗に終わるであろうことも同時に察知できる。不幸にも、私の予知能力は外れることがないのだ。

 で、このブラ3は、将棋のプロテストに失格して女に走ったころに愛聴した後期ロマン派の傑作だ。特に第三楽章の甘く切ないメロディには、きびしい運命を背負った男女の愛の語らいみたいな美しい哀感があって、あらゆるシンフォニーの中でも私の最もお気に入りの楽章である。

 コンダクターのフルトヴェングラー(1886~1954年)は、いまでもクラシック界の人気ナンバーワン指揮者で、そのむちゃくちゃにスケールの大きいドラマティックで崇高な演奏は、録音の古さをものともせずに、聴くもののハートに直接突き刺さってくるかのようだ。

 乱暴覚悟でフラメンコに例えれば、マイレーナと並ぶカンテの大巨匠マノロ・カラコール(1910~1973年)の衝撃に近いものを私個人は覚える。
 芸風も何もかもがまったく異なるのだが、人の心を直接鷲づかみにするようなインパクトにはまったく同質なものを感じるからだ。





[マノロ・カラコール/フラメンの大家たち⑦]



 そう感じたのはこの時がはじめてだったので、あいにくカラコールのCDを持参しなかった私が次に選んだCDは、マイテ・マルティン『こわれもの』だった。
 プーロもいいが、「サファイアと月(ブレリア)」と「SOS~助けて」のロマンティックな二曲に、上天気の美しい風景の中をさまよう私の心の中に
は銀の雨が降りそぼった。




[マイテ・マルティン/こわれもの]




 あ、あの、おぢさん、ぜ、ぜんぜん曲のつながりが見えないんですけど。

 そう、黄門さんで始まった本日の連想ゲームはマイテ・マルティンまで飛んで行った。その理由は私にもわからない。
 さらに、このあと私は雑用を片付けるために徒歩(約40分)でパセオに向かうのだが、そこで聴くのは橘家円蔵(昔の円鏡さん)の爆笑落語であった。
 円蔵師匠に大笑いしながら、大手を振って新目白通りを闊歩する私を、すれ違う見ず知らずの方々はどう見たろーか?

 こうした分裂ぶりこそが私の休暇の醍醐味なのかもしれんが、私個人としてはこ-ゆー人とはぜったいお友だちにはなりたくない。

 







 









 



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