おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「銀しゃり」 山本一力

2008年04月14日 | や行の作家
「銀しゃり」 山本一力著 小学館 (08/04/14読了)

 450ページ近い大部にも関わらず、一日で読んでしまいました。多分、文章が上手いのだと思います。ミネラルウォーターのようにひっかかりなく、スラスラ読める。嫌味なく、スピーディーなストーリー展開で小気味良い。深川あたりを舞台に、寿司屋の新吉をめぐるお江戸人情物語。仕事一筋、マジメで、ピュアな新吉を、素直に応援したくなっちゃいます。そして、新吉を温かい目で見守るお武家さんや、商売仲間たちも、これまた、いい人たちなのです。-ととりあえず、絶賛。

 しかし、この前読んだ「だいこん」は、同じく江戸を舞台に一膳飯屋を切り盛りするつばきちゃんの細腕繁盛記。新吉、つばきちゃんは共に“ご飯を炊く”ことに類まれなる才能を持ちつつも、さらなる精進を怠らない仕事人。誰でもが応援したくなっちゃうような頑張り屋さん-背景のエピソードは違うけれど、でも、なんか、あまりにも似すぎていませんか?「飯炊き物語」男の子版&女の子版って感じです。どうせなら、メシの上手さを競い合うライバル店として、互いの小説に友情出演でもしたらいいのに。

というような、類似小説ではありますが、個人的には、圧倒的に「銀しゃり」の方が好みです。「だいこん」は回想シーン多出につき時空のワープが激しく、読むのに疲れましたが、「銀しゃり」はほぼ時系列に沿ったストーリー展開なので、ラクチンに読めました。

ストーリーとは直接の関係はありませんが…「サラ金の取立屋」とか「都内1時間以内配送メール便」とか…今っぽい仕事が江戸時代にもあったようで、そういう風景がさりげなく描かれているのが面白かったです。それから新吉の寿司屋は杮寿司(こけらずし)という押し寿司なのです。今、押し寿司というと、なんとなく、関西食文化というイメージがあるのですが…関東にも、こんなにおいしそうな押し寿司があったのかと、食べてみたい気持になりました。

「のぼうの城」 和田竜 

2008年04月13日 | わ行の作家
「のぼうの城」和田竜著 小学館 (08/04/13読了)

 「出た! 戦国時代の伊良部」って感じです(ピッチャー伊良部ではありません。奥田英朗の「空中ブランコ」に登場するキモ癒し系の精神科医の伊良部)。“のぼう様”こと成田長親(なりた・ながちか)クン、いい味出してます。
 
 成田氏は現在の埼玉県あたりで権勢をふるっていた北条方の武家。圧倒的な軍勢の差がありながら、関東に攻め入ってきた秀吉の家臣・石田三成との戦いに善戦したそうです。関東人として、そんな史実も知らなかったのは、恥ずかしい限りですが、成田氏の戦いぶり、なかなかに潔く清清しいものがあります。のぼう様は当主・氏長(うじなが)の従兄弟にあたる人物。うすらデカくて、醜男で、不器用で、使えない奴-なのに、不思議な力で人を惹きつける。誰も予想だにしない行動で、戦いの流れを変え、気がつけば敵方の武将の心までつかんでいるのです。まさに、伊良部のような男です。

 この小説、面白いハズの要素が満載。のほう様のキャラ良し。脇役の家臣たちも、シブいです。特に、幼なじみでもある丹波はカッコいい系。敵方の三成も憎めない。-しかしながら、読むのは苦労しました。

太い幹の大きな木。大枝から、いくつもの小枝に分かれ、さらに、その先には、何枚もの葉が茂っている。この小説の進め方は、大枝から小枝、小枝から、葉の一枚一枚へという感じで、どんどん枝葉末節をたどっていくのです。そして、あるところで、突然、次の大枝に移り、再び、大枝から小枝、小枝から葉へと。だから、本当に、大切なストーリーの枠組みがなかなか掴めない。ゆえに、流れにのって楽しめない。「終」章になって、ようやく、気分が載ってきたなという感じ。もともと、脚本であったものを小説としてリライトしたことが影響しているのかもしれませんが…でも、リライトする以上、小説として完成度の高いものにしてもらいたいです。失礼ながら、原案・企画はそのままで、もっと、上手い書き手が書いたら、めちゃめちゃ面白かったのではないかと思ってしまいました。

 ちなみに、王様のブランチで谷原章介氏激奨のちょっとした話題作です。私の好みには合いませんでしたが、歴史小説ファンには、こういうのが受けるんですかね?


「破裂」上下 久坂部羊

2008年04月09日 | か行の作家
「破裂」上下巻 久坂部羊著 幻冬舎文庫 (08/04/08読了)
 
 久坂部羊氏の作品、初めて読みました。「破裂」というタイトルから、なんとなく、爆弾モノを連想してしまいがちですが…医療ミステリーです。「医者にして作家」というご身分は、今、売出し中の海堂尊氏と同じ。海堂氏の最新作「ジーン・ワルツ」は最近、書評で取り上げまくられ、新聞広告にもしばしば掲載されていますが、個人的には、「破裂」の方が圧倒的に面白かったです。「ジーン・ワルツ」は台詞回しの不自然さで読みづらかったけれど…こちらは、上下巻2冊という大部でありながら、スピードに乗って読めました。

 テーマは高齢化問題。健康保険制度の破綻、安楽死など極めて今的な話題を盛り込んでいて、色々と考えさせられました。単純な私は、どちらかというと勧善懲悪のわかりやすいヒーロー側に肩入れしてしまうのですが…「破裂」では善と悪の境界線が曖昧です。登場人物は明らかに、善と悪にグループ分けできるのですが、善人グループも公明正大な善ではなくて、足元はぬかるんでいるし、悪人グループの言っていることを全て否定できるかというと、それもそうではなさそうな気がするのです。どちらかに肩入れしてスッキリした気分を感じさせるよりも、まさに、何が善で何が悪なのか考えさせる作品です。そして、問題提起をしつつも、ちゃんとストーリーとして成り立っています。「ジーン・ワルツ」を読んでいる時は「そんなに、厚労省に言いたいことがあるんなら、それはそれで、別のところで主張したら」と思うぐらい、主張がストーリーを邪魔している印象でしたが、「破裂」はそのあたりのバランスが良いように思います。

 ただ、なんとなく「白い巨塔」に似ているんですよね。物語の後半戦は、医療裁判場面が中心。それに微妙に教授選をめぐる思惑がからんだり、組織のためにウソをつくベテラン看護士と患者側に経つ若い看護士のバトルとか-どっかで読んだような気になってしまうのは仕方のないことでしょうか。もちろん、裁判場面は、大テーマである高齢化問題を考えさせるための重要なパーツではあるのですが…。

 そして、久坂部羊に限ったことではないのですが…オジサマの書く作品のマドンナ役って、結構、ステレオタイプなんですよね。ま、自分ではない性の感情というのは想像しにくいのかもしれませんが、数々の小説に出てくるほど都合よく人妻が恋に落ちたり、気の強い美人がオヤジに惚れたりしないと思いますが。「破裂」でも、ひそかに思いを寄せていた人妻が実は聖母マリアであった的展開には、ちょっと笑わせていただきました。

「夜は短し、歩けよ乙女」 森見登美彦

2008年04月07日 | ま行の作家
「夜は短し、歩けよ乙女」 森見登美彦著 角川書店 (08/04/07読了)

 またしても“途中棄権”のユウワクにかられながら、後半は10行飛ばしの斜め読みでなんとか読了。古文のような独特の文体もちょっと苦手だけど、それ以上に、ストーリー自体に私はついていけませんでした。さすが「ダ・ヴィンチ」のベスト1というだけであって、平々凡々な感性しか持たない私には、キュビズムの絵画を見せられたような「???」という困惑だけが残りました。意味不明ぶりは万城目学の「鴨川ホルモー」に通じるものがあります。あぁぁ、せっかく、珍しく単行本を買ったのに…。

 大学のよくわからないサークルを舞台に、黒髪の乙女に恋する先輩と、そんな先輩の気持は露知らずの乙女。二人が交互に一人称で語るというところが、小説の手法として斬新なのでしょうか?? 斬新でも、面白くなきゃ、意味ないと思うけど。なにしろ、全ての登場人物(特に、黒髪の乙女!)が浮世離れしている上に、非現実的な出来事ばかりが相次ぐのです。誰にも肩入れする気分にならないまま、「訳わかんないよぉ~」と心の中で叫びながら読み進むのは苦行でした。

 なにも、非現実的であることを否定しているわけではありません。絶対にありえない「図書館戦争」(有川浩著)は、めちゃめちゃ楽しかったし…。まぁ、シュミの問題でしょうか。何しろ、山本周五郎賞を受賞し、07年の本屋大賞では、私が愛してやまない「図書館戦争」を上回る2位なのです。そうです。きっと、凡人の私には理解が及ばなかっただけです。「鴨川ホルモー」を楽しめた人には、楽しい小説なのかもしれません。

「お鳥見女房」 諸田玲子

2008年04月06日 | ま行の作家
「お鳥見女房」 諸田玲子著 新潮文庫 (08/04/05読了)
 
 私にとっての初・諸田玲子です。江戸時代の「御鳥見役」の一家の物語。「鳥見役」なんていう役職は初めて聞きました。なんと将軍様の鷹狩りのために、餌場の巡視をしたり、日々の餌とするスズメをとったりする役割なんだそうです。そういえば…実家の近くに「鳥見塚」というところがあったけれど…もしかして、御鳥見役と関係あるのかも。それにしても、今も昔も、役職のポストというのは、無尽蔵です。

 タイトルの通り、お鳥見役の女房である珠世さんが主人公。お鳥見役であるご主人と、隠居したじいちゃん、娘・息子の5人住まいのところに、大居候軍団が転がりこんできて、日々の騒動をやわらかいタッチで描いています。珠世さんは、肝っ玉母ちゃんというのとはちょっと違うけれど、腹が据わっていて、それでいて、ホワッと周囲の人の気持ちを阿暖かくしてくれる癒し系。疲れた時にホッとするために読むのにピッタリかも。でも、あくまでも癒し系なのです。「なんとなくいい」けど、強烈な引力には欠けている。シリーズ2冊目を積極的に読むかどうかは微妙です。

「Fake」 五十嵐貴久

2008年04月05日 | あ行の作家
「Fake」 五十嵐貴久著 幻冬舎文庫 (08/04/05 読了)
 
 ううううーん。途中から、唸りながら、読んでしまいました。五十嵐貴久という人は、すごく能力の高い書き手であると思うし、決して、面白くなかったわけではないけれど、私好みではなかった。同著者の「交渉人」の圧倒的な面白さに比べると、ツメが甘い。人物設定もややリアリティに欠けるし…。特に昌史少年、西村パパは主要人物にもかかわらず、描かれ方が中途半端。

重箱の隅をつつくようなことですが、地下鉄の虎ノ門の駅から出てすぐのところに文部科学省があるという記述は正解。物語のキーマンが文科省の建物から出てきて、タクシーに乗り込んで「財務省まで行ってくれ」というのは、ありえないことです。だって、文科省と財務省は隣同士で、徒歩でも1分。もちろん、読者の多くは、霞が関の官庁街の地理に熟知しているわけではないから、ストーリーの邪魔にはならないのかもしれませんが…でも、こういうディテールのリアリティが、物語全体のリアリティにつながるのではないかと思うのです。

 そして、これは単なる個人的なシュミの問題だけど、やっぱり、なんとなく、犯罪行為には肩入れできないというか…主人公たちに共感できないまま物語を読み進んでいるので、本来ならワクワクできるはずのヤマバでも、いまいち、ワクワクできないのですよ。そして、最後が、あまりにもベタでした。息のつまるようコンゲームを展開した挙句、最後が、これ??? と、批判ばかりしてしまいましたが、要するに、「交渉人」の方が500倍面白いということです。


「ジーン・ワルツ」 海堂尊

2008年04月01日 | か行の作家
「ジーン・ワルツ」 海堂尊著 新潮社 (08/04/01読了)

 日曜日の「王様のブランチ」で紹介されていて、ついつい、買っちゃいました。流行りモノに弱い私。このミス大賞に輝き、映画化までされた「チームバチスタの栄光」の著者の作品ということで、相当の期待度で読み始めましたが、なんか、ちょっと期待はずれでした。

 主人公は美貌でキレ物の産婦人科医。数多の官僚を輩出する超有名大学に籍を置きつつ、週に何度か、民間の産婦人科医院で診察・出産に携わる。少子化問題、不妊治療、代理母、赤ちゃんポストなど超・今的テーマを取り上げている意欲作であることは間違いありません。大学病院やお産の現場を素人にもわかりやすく説明しようとしてくれていることはわかるのですが…それを、いちいち、登場人物に語らせていると、どうしても、会話が不自然になるのです。「プロ同士で、こんな、くどくどしい不自然な会話をするわけないじゃん」と突っ込みを入れたくなってしまいます。それに、美貌でキレ物の主人公があまりにも、できすぎ。ま、男性がクールビューティーに憧れるのは、なんとなく、わからないではないけれど…。

 産婦人科を取り巻く現状や、厚生労働省の施策に対して著者が抱いているだろう問題意識については、基本的に共感できます。ただ、その問題意識をあまりにも前面に出しすぎた結果、小説としての楽しさ、リズム感は犠牲になってしまったように思うのです。もちろん、フィクションを通じて問題提起することで、そのテーマに関心がなかった人も引きつける効果はあるので、問題提起自体に反対するつもりはありません。要は、バランスの問題ですが、ちょっと、これは、問題提起に偏りすぎているのではないかと。チームバチスタは面白かったのだろうか-?? 大ヒット作なので、そのうち読もうとは思っていましたが、ちょっと躊躇するなぁ。