おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「TOKYO BLACK OUT」 福田和代

2009年12月30日 | は行の作家
「TOKYO BLACK OUT」 福田和代著 東京創元社 (09/12/30読了)

 帯には「未曾有の大停電が東京を襲う 大型新人が満を持して放つ、超弩級のクライシスノベル」とある。もう、それを読んだだけで、ワクワクします。何の有り難味もなく、当たり前のように電気を使っていますが、台風やちょっとした地震ならほとんど停電することもなく、電気が安定供給の度合いは、先進国でもピカ一の日本。その日本の首都を大停電に陥れるって、いったい、どんな手法???

 新橋に本社がある東都電力(って、思い切り東京電力じゃん!)の給電指令所の描写、遠隔地にある発電所から首都圏に電力を供給するための仕組み、他の電力会社との電力融通(首都圏は電力需要が多いため、東北電力などから電気を購入している)など、どう考えても、インサイダーから取材して書いているとしか思えないリアリティーのある描写で、うすら寒くなります。ほんと、前半は、「超弩級」な感じで、ドキドキしながら読みました。

 が… 後半は、かなり尻すぼみかな。電力会社やその周辺の描写に比べると、停電した後の東京の街の描き方がかなり大雑把な感じでした。東京大停電を描くとしたら、犯行の手口もさることながら、その後のパニックは重要なパーツになると思うのですが…。停電になっても、それほど混乱した感じじゃないんのです。東京大停電という事態が進行中なのに、台所をのぞいてお姑さんが嫁にたいして「ご飯は、まだかしら?」と間抜けな質問をする場面には、ちょっと、ガッカリしました。

 また、都知事の会見場面も、「冷静に行動しましょう」とあっさり終わってしまうのですが、絶対に、そんなハズはありません。未曾有の事態で、知事が質問に答えないなんてことがあったら、会見場が怒号の渦に巻き込まれることは必至です。

 いつも、推理小説を読んで思うのは、人間はそんな理由で罪を犯すだろうか-ということです。この「TOKYO BLACK OUT」もそこが一番ひっかかりました。実際、新聞を読んでいると、人間は、実にくだらない動機で犯罪を犯しているのですが、でも、それって、結構、突発的な犯罪なのです。首都東京を停電にして混乱に陥れるという、知識・知能・組織力をベースに緻密な計画を要する犯罪を企てるというのは、単なる、恨みつらみぐらいではできないのではないかという気がするのです。宗教や狂信的な思想に取りつかれての犯罪ならばともかく…そこまで、緻密に計画を立てられる人は、その犯罪によって、自分の恨みつらみを晴らすことができないことを理解してしまうと思うのです。

 でも、2007年にデビューしたばかりの新人作家。その取材力には、感服します。次回作に更なる期待をしたいと思います。


2 コメント

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尻すぼみですか… (古河しゅんたろう)
2010-01-02 23:47:01
この書評を読まなければ、うっかり買っていたり、借りていたりしました。参考になりました。都知事会見のあっさりの部分は、しらけちゃいますね。
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買う必要はありませんが… (おりおん。)
2010-01-11 21:45:37
古河さん、こんばんは。
買うと「損した!」と思いますが、借りて読むなら、まあ許せるかなぁと思います。
電力関係者に相当取材をしたのか、その部分については、かなり、真実味のある描写でした。

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