おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「くうねるところすむところ」 平安寿子

2008年05月16日 | た行の作家
「くうねるところすむところ」 平安寿子著 文春文庫 (08/05/16読了)

 実に清清しい、気持のいいストーリーでした。大当たりです!!朝の東海道線ではからずも涙がツツーと3度ばかりこぼれてしまいました。読者を泣かせてやろう-などというあざとい演出は一切なし。軽いタッチの文章に、なんだかんだいいながらシブとくたくましい登場人物たち。泣く必然性なんてどこにも無いのに、泣けちゃうのです。

 零細の就職情報誌の副編集長をブチ切れ退職した30歳女子。フィリピーナと不倫していたダンナを追い出した結果、期せずして町の土建屋の社長に就任してしまったオバちゃん。主人公はこの2人です。建設工事現場を舞台に、ちょっと恋愛&愛着を持って仕事をするということに目覚めていく大人の成長物語。そして、建設工事の現場の描写がなんともステキなんです。日ごろ、町の中で何気なく通り過ぎてしまっていたビニールシートの向こう側、職人さんや現場監督さんはこんなことに苦労して、こんなふうに仕事しているのか-というのが垣間見られて、ワクワクします。

 もう一つ、この小説に関して、特筆すべきことは、「50ページ足りない」感です。昨日読了の「非道、行ずべからず」をはじめとして、「ちょっとくどい」「なんとなく、繰り返しが多いような…」と感じる小説が少なからずあります。「50ページ圧縮したら、もっとスッキリ、シャープな印象なのに…」と思ってしまうのです。ところが、この小説は、「くどくない」と言うよりも、潔く割愛している場面が多いのです。「えっ、で、前の男と別れる時のゴタゴタは書いてなくていいの?」「どんな手を使って、好きな男と親しくなる算段をつけたのか書いてないよ」「これほど業界通になる過程のことに全く触れていないじゃん」と思わなくはない。だから、あと50ページ足して、もうちょっと厚いストーリーにすることも出来るはずなのです。だけど、それをあえてしなかったからこそ、この物語が軽やかで気持の良いストーリーになっているのだと思います。終わり方も実に爽やか。気分としては、もっと盛り上がりたいところを、直前で寸止め。でも、だからこそ、それぞれの読者が最上のハッピーエンドを妄想できるような、なんとも、憎らしい演出でした。

 しかし、この小説、既に、1年前にドラマ化されていたとは…フジテレビ、目のつけどころがシブい! しかし、主人公の30歳女青木さやかは無いです。私なら永作博美で行きます。


コメントを投稿