温泉クンの旅日記

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白鳥

2006-09-03 | 旅エッセイ
  < 白鳥 >

 車で旅することがほとんどである。
 都市を貫く街道をただ走り抜けるだけでは、あたりまえだがその土地に旅したこ
とにはならない。駅とか土地の名前とか聞いても、たぶんそこら辺を通ったかなあ
と思う程度である。

 旅とは、はすなわち足跡を残すことだ。その土地を頭と身体に記憶させること。
写真をとるだけでは、薄っぺらい。そうわたしは考えている。
 その土地の食堂や店で、酒を呑んだり飯を食うのもいいだろう。旅館に一晩宿泊
すれば完璧で最高だが、日帰りで温泉にはいるのもいい。

 もっとも簡単で安上がりなのは、自分の脚でその土地を歩き回ることだ。何時間
も歩かなくてもいい。二、三十分もぶらぶら歩けば充分である。
 冬は雪道を車で旅するのがいやなので、電車を利用することになる。必然的に自
分の脚を使わざるを得ないので、まるごと旅を実感できるのである。

(酒田とか五所川原の駅前によく似ているな・・・)

 新発田の駅舎を出ると小さな広場があり数台のタクシーが客待ちしている。
 その先に、両側に商店を連ねたまっすぐ一本の道が伸びていた。その商店街もあ
ちこちでシャッターを降ろしているのが、いかにも寒々しい。
 冷え込みがきついのと荷物が邪魔なので、一番とっつきにある和食処「ながし
ま」で時間をつぶすことにした。新発田からローカル線に乗り換えるのだが、一時
間ほどの待ち時間があるのである。

 店に入ると、昼時のせいか思ったより混んでいた。
 四人掛けのテーブル席に案内されると、分厚いコートとマフラーを手早く脱ぎな
がらメニューを一瞥して、
「とりあえず八海山を、熱燗で」
 冷え切った身体は、とにかく内側から暖めるにかぎる。今回は車でないのでいい
だろう。運ばれた酒を呑みながらメニューをみると和食や寿司のほかに、ラーメン
などもやっている。あとで、ラーメンを頼むとするか。

 う、うまい。
 熱い酒が喉をぬくもりが落ちてゆく。昼の酒は罰当たりだけどホント贅沢だ。
少量でも酔える。旅先で昼間からこんな贅沢をするのであるから、食事のほうは、
ラーメンでもなあに上等なのである。
 思ったより早く到着しそうなので旅館に電話をいれた。

「えっ、いま四十分っておっしゃいましたか」
 素っ頓狂な声をだしてしまう。
 今日泊まる月岡温泉の宿に、駅からの所要時間を聞いてびっくりした。月岡駅か
ら歩いて四十分かかるという。タクシーも駅前にはないらしい。ありがたいこと
に、迎えに来てくれるという。チェックインも早めに準備してくれると、行き届い
たものだ。ありがたい。



 厚く垂れ込めた灰色の雲の下、刈り取られた田んぼ平原の真ん中を、二両編成の
電車がゆく。車両はぴかぴかの新型である。
 運動部の帰りなのだろう、学生服の高校生が前で長い脚を投げ出し、おにぎりを
食べから揚げを食べパンを食べ、パンくずを払いながらパックの牛乳をがぶ飲みし
ている。

 斜め前に座ったひとり旅の中年男が、駅から持ってきたのだろう、いくつもの
観光パンフレットにつぎつぎとせわしなく眼をはしらせていた。くまれた脚のその
先にある靴底が妙に新しい。はじめての旅なのであろうか。



 田んぼの一角に大きな鳥の大群がうずくまっていた。白鳥・・・か。そんなわけ
ないか。
 あとでわかったのだがやはり白鳥だった。有名な瓢湖(ひょうこ)からやってき
て、昼間はいつも遊んでいるらしい。餌がいるのかもしれない。
 それにしても、無数の田んぼがあってどこでもよりどりみどりなのに、ひとつの
田んぼに群れで固まっているのはなぜだろう。

 集団を嫌い、ひとり旅する白鳥はいないのだろうか。

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