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私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




The Walsingham Consort Books
RICERCAR RIC 275
演奏:La Caccia, Patrick Denecher (flûte à bec, Direction)

コンソート(Consort)と言う場合、リコーダーやヴィオールなど単一の楽器のみのよって編成されるものと、管楽器や弦楽器が混在するいわゆる「ブロークン・コンソート」とがあるが、当初その楽曲を記録する楽譜には、明確な楽器指定がなかった。1588年に作製された「ウォーシンガム・コンソート・ブック(Walsingham Consort Books)」は、最初の明確に楽器指定がされた曲集と考えられている。この曲集の名前の由来は、エリザベスI世の王璽尚書、最高位の長官であったフランシス・ウォーシンガムを初めとしたウォーシンガム一族の名を冠した曲が多数含まれていることによる。この曲集は、6つのパート譜からなっており、その編成はリュート、3つの旋律楽器(トレブル・ヴィオール、バス・ヴィオール、リコーダー)、それにシターン、バンドーラからなっている。しかしこの曲集は、今日3つの旋律楽器とシターンのパート譜だけが残っている。しかしその収録曲の多くは、同時代の他の曲集によって復元可能である。そのひとつがトーマス・モーレイによって1599年に編纂された”The First Book of Consort Lessons”で、さらにマシュー・ホームズにより1590年代に編纂された手稿がある。
 このウォーシンガム・コンソート・ブックでは、リチャード・アリソン(Richard Allison, 1560年代? - 1610年頃)とダニエル・バチラー(Daniel Bachiler, 1572 - 1619)の曲が目立っている。それまでの作曲家は、旋律を相互に組み合わすことが可能な要素として提示し、演奏者がこれを状況に応じて様々な方法で演奏することが普通であったのに対しアリソンやバチラーは、明確に6部のコンソートのために作曲すると言う基礎を築いたと考えられている。特にこのCDにも収録されているアリソンのThe Lady Frances Sidney’s Goodnight”, “The Lady Frances Sidney’s Almain”, “The Bachiler’s Delight”、バチラーの”Sir Francis Walsingham’s Goodmorrow”や”Daniel’s Trial”では、反復部での装飾音も当時はリュートのパートではしばしば見られたものの、リコーダーのパートにもすべて書き込んであるという点で、画期的であった。このウォーシンガム・コンソート・ブックに含まれる曲でも、バチラーの”The Lady walsingham’s Conceits”や”Daniel’s Almain”は、そのような装飾音を含んだ反復はないが、同じくこのコンソートのための作曲したものだが、そのほかには本来は独奏楽器のための作品を編曲した作品もある。これらの曲を聴いてみると、6つの楽器のアンサンブルとしての纏まりが強く感じられる。曲によって、主旋律をヴィオール奏する場合やリコーダーが奏する場合があるが、リュートの主導的役割は一貫している。
 上に挙げた7曲の題名は、前に「エリザベスI世時代イギリスの鍵盤楽器のための作品」の項でも触れたように、人の名や印象に残る題名を付けるという流行にしたがったもので、このCDに収録されている曲の大半がそのような題名を持っている。
 このCDには、この他に上記のマシュー・ホームズによって編纂された曲集からの作品も収録されている。この曲集からの作品も含めて5曲の声楽のための作品も含まれ、これらはソプラノの独唱とコンソートの伴奏で演奏されている。
 このCDで演奏しているのは、ベルギーのアントウェルペンを拠点としているアンサンブルLa Cacciaで、1995年にリコーダー奏者のパトリック・デネカーにより組織され、主に中世、ルネサンスの器楽、声楽作品の演奏を目的としている。時に応じて、ショームやトロンボーンによる”alta capella”やリコーダーやリュート、シターン、バンドーラなどからなる”bassa capella”、そして声楽のみの”a capella”等種々な編成をとっている。このCDの演奏は、”bassa capella”編成である。曲目の中には舞曲も含まれるが、打楽器は使用せず、6人からなる室内楽的合奏による穏やかな響きが印象的である。
 近年エリザベス朝の音楽は、様々な分野の作品が録音され、そのCDのレパートリーは非常に豊かになった。このLa Cacciaの演奏にも、トーマス・モーレイの”The First Book of Consort Lessons”のCDが、同じくリチェルカールから発売されている。このCDは、2008年2月に録音されたもので、現在でも入手出来るはずだが、ALPHA , RICERCAR, FUGA LIBRAのウェブサイトが、なぜか突然消滅してしまった。日本でこれらのレーベルを輸入しているマーキュリーのサイトも現在工事中で、事情が全く分からない。このCDのレーベルや解説書によると、版権の所有者は”Outhere”と記されており、この名称のCDレーベルは、ドイツにアーバン・アフリカン・クラブ音楽専門のレーベルがあるが、このレーベルとの関連も不明である。リチェルカール、アルファ、フーガ・リブラいずれも優れた古楽のレパートリーを持つレーベルであり、万一消滅するようなことがあれば、それは古楽を愛するすべての人にとって、大きな損失になる。そのようなことにならないことを切に願っている。

発売元:RICERCAR

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