私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Kuhnau: Musikalische Vorstellung einiger biblischer Historien in 6 Sonaten (Leipzig, 1700)
TELDEC DAS ALTE WERK, Gustav Leonhardt Edition 3984-21763-2
演奏:Gustav Leonhardt (Organ, Harpsichord and Narration)

ヨハン・クーナウ(Johann Kunau, 1660 - 1722)は、1701年から1722年までライプツィヒのトーマス・カントールとして、バッハの前任者であったと同時に、鍵盤楽器奏者、オルガンの専門知識に通じていたという点でもバッハと共通していた。事実1716年には、ハレの聖母教会のオルガンの試奏に、バッハとともに招かれている。クーナウは4冊の鍵盤楽器のための作品を出版している*。1689年と1692年に出版した「鍵盤楽器練習曲集(Klavierübung)」は、それぞれ7曲の組曲から成っている。この”Klavierübung”という名称は、バッハの同名の作品出版の手本となったものである。1696年に出版した「鍵盤楽器の新鮮な果実( Frische Clavier Früchte)」に続いて、1700年にいわゆる「聖書ソナタ( Musicalische Vorstellung einiger Biblischer Historien)」を出版した。これは、旧約聖書にある6つの物語をもとにした一種の標題音楽である。その物語は、(1) ダヴィデとゴリアテの戦い、(2) ダヴィデによって音楽で癒されたサウル、(3) ヤコブの結婚、(4) ヒスキア王の瀕死の病と快復、(5) イスラエルの救済者、ギデオン、(6) ヤコブの死と埋葬である。各組曲の前にはその物語の解説と各曲の標題がドイツ語で付けられ、各曲のはじめには同じくイタリア語で標題が付けられている。各組曲の曲自体は、トッカータやフーガ、レシタティーヴォ、そして様々な舞曲から成っていて、音楽によって情景を描写するものではない。このような標題音楽の形式は、若いバッハがカプリッチョ「旅立つ兄弟に寄せて(Capriccio. Sopra il Lontananza de il Fratro dilettissimi)」(BWV 992)の各曲のはじめに付けた説明と共通するものである。
 ここで紹介するCDは、この作品をグスタフ・レオンハルトが演奏したものである。レオンハルトは、演奏ばかりではなく、各組曲の前に置かれた物語の解説と各曲のドイツ語の標題の朗読も行っている。物語の朗読は、4分から長いものでは5分以上にも及んでいる。各曲の標題の朗読が曲の冒頭と重ねっているところがやや気になる。組曲の第1と第4はポジティフ・オルガンで、残りの4曲はチェンバロで演奏している。ポジティフ・オルガンは、オランダ、カクトリクムの改革教会にある18世紀前半の楽器、チェンバロは、マルティン・スクヴォロネックによる1745年ドゥルケン作の楽器の複製である。この楽器は、「ゴルトベルク変奏曲」の項で取りあげたレオンハルトの演奏によるCDと同じものである。レオンハルトはこの「聖書物語」以外にも、先にあげたバッハのカプリッチョ(BWV 992)のダス・アルテ・ヴェルクにおける録音においても、曲の説明を朗読している。ドイツ語が理解出来ない人にとっては、この朗読は意味が分からないので、ただ退屈なだけであろう。しかしこれによって、このCDの価値が失われるわけではない。17世紀終わりから18世紀初めのドイツにおける鍵盤楽器のための作品として、この「聖書物語」は重要な位置を占めている。バッハの作品ばかりではなく、このような作品を聴くことも必要だと、筆者は考えている。
 このCDは、テルデックのダス・アルテ・ヴェルクの40周年の企画として1998年に発売された「グスタフ・レオンハルト・エディション」の21枚のCDのひとつで、日本でも輸入盤に日本語の解説が添付されて発売されていた。現在は単発のCDとしてはドイツでも日本でも廃盤になっているようだが、今年レオンハルトの80歳を記念して21枚組のCDセットとして再発される。このCDセットについては、くらんべりぃさんのブログ「すばらしき古楽の世界」で曲目リストが紹介されている。

発売元:TELDEC

* クーナウの出版作品については、"Bach Kantatas Website"のクーナウの伝記及びclassic-arietta、Komp-lex das Komponistenlexikonのクーナウの項を参照した。

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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (くらんべりぃ)
2008-07-19 23:48:53
昨日ようやく引用していただいたレオンハルトの21CDセットが届きまして、今この曲を聴きながら、コメントを書いています。

表題の朗読ですが、こうした聖書の背景となっている曲については実に重要であると考えています。クーナウの頃にはルターのドイツ語訳聖書が出版されていたとはいえ、聖職者以外の人がこれらの背景をしっかり理解することが、曲を聴くには重要であるからです。「聖書物語」であることを考えると、わたくしは曲の冒頭にナレーションがかぶっていることは気になりません。クーナウの意図と離れるかもしれないですが、一つの「物語」としての作品として、とても素晴らしい出来だと思います。




 
 
 
レオンハルトの「聖書物語」 (ogawa_j)
2008-07-20 11:46:15
ご指摘の通り、レオンハルトは解説と標題の朗読は、この作品を理解するには必要と考えて加えたのでしょう。彼の演奏に対する姿勢が伺えますね。「旅立つ兄弟・・・(BWV 992)」の朗読も、私は好きです。
 
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