私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Johann Sebastian Bach: Concerts avec plusieurs instruments - III
Alpha 071
演奏:Café Zimmermann

今回紹介するCDの標題「Concerts avec plusieurs instruments(様々な楽器による協奏曲集)」の由来は、バッハが1721年3月24日付の献呈の辞を付けて、ブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに贈った自筆総譜の表紙に記された標題"Six Concerts Avec plusieurs Instruments"(いわゆるブランデンブルク協奏曲)にある。アルファ・レコードは、この標題で3枚シリーズのCDを発売している。このシリーズに収録されている作品には、厳密には協奏曲という形式に入らない管弦楽組曲も含まれているが、その枠組みを少し緩めてみれば、同じ器楽合奏曲に属する作品と見ることが出来るだろう。
 ここで紹介するCDは、そのシリーズの3枚目に当たるもので、ブランデンブルク協奏曲第4番ト長調(BWV 1049)、オーボエ・ダ・モーレと弦楽合奏のための協奏曲ニ長調(BWV 1053)、3台のチェンバロのための協奏曲ハ長調(BWV 1064)及び管弦楽組曲第2番ロ短調(BWV 1067)の4曲である。BWV 1053は、もとはチェンバロ協奏曲ホ長調で、通常はオーボエ協奏曲ヘ長調として演奏されることの多い作品であるが、ここでは原曲を全音低くして、オーボエ・ダ・モーレを独奏楽器にしている。この作品は、チェンバロ協奏曲の他に、三位一体後第18日曜日のためのカンタータ「神のみが私の心を知っておられる」(BWV 169)の第1楽章シンフォーニアと、第5楽章アルトのアリア、三位一体後第20日曜日のカンタータ「私は行って、あなたを捜し求める」(BWV 49)の第1楽章のシンフォーニアの形でも残っていることは、「 バッハのチェンバロ協奏曲の原曲とされるオーボエのための協奏曲」の項でも触れたが、このカンタータへの転用ではBWV 169の第1楽章シンフォーニアはニ長調、BWV 49の第1楽章シンフォーニアはホ長調となっていて、原曲の調性がはっきりしない。このアルファ・レコードの演奏では、BWV 169の調性に合わせて、その結果としてオーボエ・ダ・モーレが採用されたのかも知れない。
 このCDで演奏をしているカフェ・ツィンマーマン( Café Zimmermann)は、その名をバッハにちなんで付けたものである。 バッハは1729年3月、ライプツィヒ大学の学生を主体に編成されている「コレーギウム・ムジークム(collegium musicum)」の指揮を引き受けることとなった。17世紀を通じて、ライプツィヒ大学の学生が組織した団体が当時のトーマス・カントールなど、ライプツィヒの有力な音楽家の指導を仰ぎ、演奏活動を行っていた。1701年には、新築された新教会のオルガニスト、ゲオルク・フィリップ・テレマンとライプツィヒ大学の法学生がコレーギウム・ムジークムを結成、多いときは40人の学生を擁していた。以後新教会のオルガニストが歴代の指揮者を務めてきており、1720年以来指揮者であったゲオルク・バルタザール・ショットがゴータのカントールになった後を受けて、バッハがその後を引き継ぐこととなった。以後1737年夏から1739年秋にかけて、いったんその地位を新教会のオルガニストで、かつてバッハに教えを受けていた、カール・ゴットヘルフ・ゲルラッハ(Carl Gotthelf Gerlach)に譲っていたが、1739年10月2日から再び指揮を引き受け、少なくとも1741年5月、コーヒーハウスの経営者、ゴットフリート・ツィンマーマン(Gottfried Zimmermann)の死まではその任にあったと思われる。このツィンマーマンのコーヒーハウスでは、冬の間は毎金曜日20時から22時まで屋内で、夏の間は毎週水曜日の16時から18時まで同じくツィンマーマンが所有する庭園で演奏を行っていた。更に見本市が開催される時期には、これに加えて火曜日の20時から22時まで、コーヒーハウスで演奏を行っていた。この間10年以上にわたって、毎週2時間と言うことは、延べ1000時間にも上る演奏会で、どのような曲が演奏されたのか、その詳細は分かっていないが、ヘンデルやテレマン、ピエトロ・ロカテッリ、ニコラ・ポルポラ、アレッサンドロ・スカルラッティなど当時有数の音楽家の作品を演奏していた事が、フィリップ・エマーヌエル・バッハやバッハの写譜者によるパート譜の写本の存在から推定出来る。これらの演奏曲目の中にバッハ自身の作品が含まれていたことは当然であろう。現存する作品の中では、例えば「コーヒーカンタータ(BWV 211)」などの世俗カンタータ、チェンバロ協奏曲、管弦楽組曲などがこれに含まれると考えられているが、ヴァイオリンやフルートのためのソナタも加えられるのではないかと思われる。また、ザクセン選帝候兼ポーランド国王、さらにはその妻子の誕生日や命名祝日等には、特別の演奏会が行われ、これらの機会にも、バッハの祝賀カンタータなどが演奏された。しかし、このコレーギウム・ムジークムとの関係は、この期間に限らず、ゼバスティアン・バッハがライプツィヒに着任した直後からあったのではないかとも思われる。
 このようなバッハのコレーギウム・ムジークムとのツィンマーマンのコーヒーハウスにおける演奏活動と関連してこの 3枚のCDの曲目を考えると、演奏会として有ってもおかしくないものであるように思える。
 カフェ・ツィンマーマンは、1998年に創設されたフランスのアンサンブルで、拠点を上部ノルマンディーに置いている。5人の弦楽器奏者とチェンバロの6名が基本の構成で、これに必要に応じて他の奏者が起用される。指導的な奏者はヴァイオリンのパブロ・ヴァレッティとチェンバロのセリーヌ・フリッシュである。その演奏は、合奏部も含めて各パート1人の構成により、個々の奏者の創意に富んだ演奏の集合体として、実に生き生きとしたものとなっている。録音は2004年2月と8月にロレーヌ地方のメッツで行われた。なお、この3枚シリーズのCDについては、ぷっちさんのブログ「バロックな話」で紹介されている。

発売元:Alpha

* バッハのコレーギウム・ムジークムとの活動については、下記の論文を参考にした: Werner Neumann "Das 'Bachische Collegium Musicum,'", BJ 1960, p. 5 – 27: Andreas Glöckner "Bachs Leipziger Collegium musicum und seine Vorgeschichte", Die Welt der Bach Kantaten, hrsg. von Christoph Wolff, Band II, p. 105 – 117: Christoph Wolff "Johann Sebastian Bach", Deutsche Übersetzung von Bettina Obrecht, S. Fischer Verlag, Frankfurt am Main, 2000, p. 379

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