フランス国立図書館や大英図書館など所蔵の手稿にもとづく中世の舞曲を聴く

Danza: Danses médiévales
Ricercar RIC 274
演奏：Millenarium

6世紀から15世紀にかけての西洋音楽は、中世という時代に区分されているが、教会で歌われるグレゴリア聖歌やトルバドゥールやトルヴェール、ミンネゼンガーと言った吟遊詩人達の音楽は、多くは口承で、あるいはネウマ譜で記録された手稿で伝えられている。それに対して民衆の間の音楽はジョングルールと呼ばれる大道芸人によって演奏されるものなどがあるが、楽譜として今日まで残っているものは極めて少ない。少数の楽譜に残されている曲があったとしても、それがどのように演奏されたのか、テンポやリズム、また楽器についても、情報は極めて少ない。これらについては、その手掛かりを当時の文学などの文字情報や絵画、彫刻などに描かれた画像資料に求めることになる。数は限られるが当時の楽器は、各国の博物館に保存されている。中世の世俗音楽の再現を試みる場合、こうした手掛かりに基づいて、想像力を働かせなければならない。
　中世起源と考えられているおそらく唯一の舞曲エスタンピー（仏：estampie）は、ジョングルールによって演奏されていた曲を、トルバドゥールが取り入れたと推定されている歌謡が存在するが、本来は純然たる器楽曲であったようだ。
　今回紹介するCDで演奏しているミレナリウムは、1999年に創設された中世の音楽を専門とするアンサンブルである。その人的構成を含めて情報は極めて少ないが、これまでにもリチェルカール・レーベルから中世の声楽曲、器楽曲のCDが4枚発売されている*。今回紹介するCDは、中世の舞曲という、伝承情報の極めて限られた分野に挑戦したものである。この録音に参加しているのは、ポルタティフ・オルガンのクリストフ・デスリン、打楽器のティエリ・ゴマ、リュートのフィリップ・マルフェイ、フィドルのバティスト・ロマン、ヴァイオリンとシターンのジャン＝ルー・ディスカム、フラウト・トラヴェルソのアンリ・トゥルニエ、ハープのエヴァ・フォージェルジェザンの7人である。
　収録されている19曲の内、口承に基づく1曲以外は、パリの国立図書館、ロンドンの大英図書館およびマドリードの国立図書館所蔵の中世の手稿に記された、主に歌詞のない曲に基づいている。これらの原曲は、おそらく単純な旋律のみで、これらをもとに即興を加え、アンサンブルのメンバーが楽器編成や打楽器のリズムを考案して演奏したものである。第1曲目の12世紀フランスのトゥルバドゥール、ベルナール・ドゥ・ヴァンテドゥール（Bernard de Ventadour）の歌謡に基づく舞曲の演奏を聴くと、あまりにも整然としていて、果たして12世紀に、このような演奏があっただろうかという疑問も感じるが、曲を聴き進める内に、そのような疑問は感じなくなってきた。当時は未だ和声、調性が導入される以前で、それ故旋律は調性音楽時代になってからのものとはかなり異なっている。ある意味異国趣味を感じる。
　なお、添付の解説書は仏、英、独語で記されているが、トラック＝曲目リストはフランス語のみの記述で、フランス語を知らないと、その記述内容は理解しにくい。録音は、ラングドック・ルシオンのノートルダム・ドゥ・サンティーユで、2007年4月に行われた。この演奏に使用された楽器の詳細や演奏ピッチについては、何も記されていない。このCDは、現在も購入可能だが、日本のインターネットのCDショップによっては購入が難しい場合もあるので、注意が必要である。筆者もあるショップに注文したが1ヶ月以上経っても入荷の見込みが立たず、キャンセルして他店から購入した。

発売元：Ricercar

* ”Douce Amie - Trouveres songs Millenarium”（RIC 215）、”Thibaut de Champagne, Bernard de Ventadorn, Gaucelm Faidit, Beranguier de Palol Troubadours Songs and Tumbler Dances”（RIC 243）、”Carmina Burana (vol.1): Tempus Transit“ （RIC 238）、”Carmina Burana: Officium Lusorum” （ RIC 247、Choeur de Chambre de NamurおよびPsallentesと共演）


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