私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Johann Sebastian Bach: Concerts avec plusieur instruments - II
Alpha 048
Café Zimmermann

以前に「ツィンマーマンのコーヒーハウスでは、このような作品が演奏された!?」で紹介したとおり、今回紹介するCDの標題”Concerts avec plusieurs instruments(様々な楽器による協奏曲集)」の由来は、バッハが1721年3月24日付の献呈の辞を付けて、ブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに贈った自筆総譜の表紙に記された標題”Six Concerts Avec plusieurs Instruments”(様々な楽器を伴う6曲の協奏曲、いわゆるブランデンブルク協奏曲)にある。アルファ・レコードは、この標題で今までに4枚のCDを発売している。このシリーズに収録されている作品には、厳密には協奏曲という形式に入らない管弦楽組曲も含まれているが、その枠組みを少し緩めてみれば、同じ器楽合奏曲に属する作品と見ることが出来るだろう。
 ここで紹介するCDは、そのシリーズの2枚目に当たるもので、ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調(BWV 1048)、2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調(BWV 1043)、管弦楽組曲第1番ハ長調(BWV 1066)、それに2台のチェンバロのための協奏曲ハ短調(BWV 1060)を原曲とするオーボエとヴァイオリンのための協奏曲ハ短調の4曲を収録している。
 ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調は、ヴァイオリン3,ヴィオラ3,チェロ3と通奏低音(チェンバロとヴィオローネ)の11人で演奏する作品である。6曲のブランデンブルク協奏曲の中では、比較的早くに作曲された作品と考えられる。おそらくはヴァイマール時代(1708年から1717年)の作品だろう。第6番とともに、独奏と合奏あるいは小編成と大編成の合奏の対比によるのではなく、むしろ17世紀のドイツの合奏音楽に基づいているという理解もされている。2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調は、すでに「バッハのヴァイオリン協奏曲、3種の演奏を聴き比べる」でも触れたとおり、カール・フィリップ・エマーヌエルの関与している、1730/31年頃に作製されたパート譜がもっとも古い原典であるが、伝統的にはケーテン時代(1717年から1723年)の作品と考えられている。二人のヴァイオリン独奏の緊張した追いかけ合いが魅力の作品である。管弦楽組曲第1番ハ長調は、7楽章からなっており、ガヴォト、メヌエット、ブレー、パスピエはいずれも2部からなり、4曲の中でもっとも演奏時間が長い。オーボエとヴァイオリンのための協奏曲ハ短調は、チェンバロ協奏曲からの編曲の中では、もっとも演奏される機会が多い、独立した協奏曲としての市民権を確立していると言ってよい作品である。
 このCDで演奏をしているカフェ・ツィンマーマン( Café Zimmermann)は、その名をバッハにちなんで付けたものである。 バッハは1729年3月、ライプツィヒ大学の学生を主体に編成されている「コレーギウム・ムジークム(collegium musicum)」の指揮を引き受けることとなった。以後1737年夏から1739年秋にかけて、いったんその地位を新教会のオルガニストで、かつてバッハに教えを受けていた、カール・ゴットヘルフ・ゲルラッハ(Carl Gotthelf Gerlach)に譲っていたが、1739年10月2日から再び指揮を引き受け、少なくとも1741年5月、コーヒーハウスの経営者、ゴットフリート・ツィンマーマン(Gottfried Zimmermann)の死まではその任にあったと思われる。このツィンマーマンのコーヒーハウスでは、冬の間は毎金曜日20時から22時まで屋内で、夏の間は毎週水曜日の16時から18時まで同じくツィンマーマンが所有する庭園で演奏を行っていた。演奏された曲には、バッハ以外の作品も含まれていたと思われるが、バッハ自身の作品では、例えば「コーヒーカンタータ(BWV 211)」などの世俗カンタータ、チェンバロ協奏曲、管弦楽組曲などであったと思われる。それに加え、ヴァイオリンやフルートのためのソナタやチェンバロ独奏の曲も含まれていたかもしれない。また、ザクセン選帝候兼ポーランド国王、さらにはその妻子の誕生日や命名祝日等には、特別の演奏会が行われ、これらの機会にも、バッハの祝賀カンタータなどが演奏された。しかし、このコレーギウム・ムジークムとの関係は、この期間に限らず、ゼバスティアン・バッハがライプツィヒに着任した直後から、日曜祝日の聖ニコライ教会と聖トーマス教会における教会カンタータなどの演奏に際して、オーケストラの要員として起用するなどの結び付きがあった可能性がある。
 このようなバッハのコレーギウム・ムジークムとのツィンマーマンのコーヒーハウスにおける演奏活動と関連してこの 4枚のCDの曲目を考えると、演奏会として有ってもおかしくないものであるように思える。
 カフェ・ツィンマーマンは、1998年に創設されたフランスのアンサンブルで、拠点を上部ノルマンディーに置いている。指揮者は置かず、指導的な奏者はヴァイオリンのパブロ・ヴァレッティとチェンバロのセリーヌ・フリッシュで、他の奏者は曲によって適宜招集しているようである。このCDの演奏では、ブランデンブルク協奏曲第3番で、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ各3名が必要であり、2つのヴァイオリンのための協奏曲では、第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ各2名、管弦楽組曲第1番では、第1、第2ヴァイオリン各3、ヴィオラ、チェロ各2というやや大きな編成を採っている。オーボエとヴァイオリンのための協奏曲では、伴奏は各パート1名である。このような曲に応じての柔軟な編成は、原典や当時の演奏実態を充分に研究せずに、すべて各パート1人のいわゆるOVPP(One Voice per Part)を採用している演奏団体よりも好感が持てる。その演奏は、個々の奏者の創意に富んだ演奏の集合体として、実に生き生きとしたものである。録音は2004年6月にロレーヌ地方のメッツで行われた。

発売元:Alpha

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
クラシック音楽鑑賞をテーマとするブログを、ランキング形式で紹介するサイト。
興味ある人はこのアイコンをクリックしてください。

音楽広場
「音楽広場」という音楽関係のブログのランキングサイトへのリンクです。興味のある方は、このアイコンをクリックして下さい。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« フランス国立... モーツァルト... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。