私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Ludwig van Beethoven: Sonata op. 27 nr. 2 - Sechs Bagatellen op. 126 - Grande Sonate Pathétique op. 13 - Andante WoO 57
Accent ACC 78332 D
演奏:Jos van Immerseel (Fortepiano)

ベートーフェンのピアノ・ソナタは、以前に「ベートーフェンのピアノソナタをオリジナル楽器で聴く」で、「熱情」、「ヴァルトシュタイン」など中期の作品を収録したCDを紹介したが、今回紹介するのは、1788年に作曲されたソナタハ短調「悲愴」(作品13)と1801年に作曲されたソナタ嬰ハ短調「月光」(作品27の2)を中心としたCDである。
 上に挙げた項ですでに述べた通り、ベートーフェンは時期によって所有していたピアノが変遷しており、これら2曲のソナタを作曲した頃は、アントン・ヴァルター製のフォルテピアノを使用しており、この楽器は機構的には「ヴィーン式」と呼ばれるもので、 FF - f’”の61鍵であった。
 ベートーフェンがピアノ・ソナタの作曲を始めたのはかなり早く、32曲の番号付きのソナタより以前に、1782年から1783年、12歳から13歳の時に3曲のいわゆる「選帝候ソナタ」(Kinsky WoO 47 Nr. 3)を作曲しているが、本格的なピアノ・ソナタの作曲はそれから12年後の1794年から1795年にかけての作品2の3曲からであった。その後ピアノ・ソナタばかりでなく、様々な曲が生み出されて行く。そのような初期の多産期の中で、作品14の2曲のソナタと同時期に作曲されたのが作品13の「大ソナタ悲愴(Grande Sonate Pathétique)」である。この表題はベートーフェン自身に由来するという説と出版社によるという説がある。ゆっくりとした序奏に始まるアレグロ、アダージョ、アレグロの3楽章からなる。第1楽章はベートーフェン独特の劇的な楽章で、第2楽章は単独でオーケストラ編曲でも演奏される。一方の「月光」ソナタは、1801年の作で、アダージョの第1楽章、アレグレットの第2楽章、プレストの第3楽章という独特の構成を持つ。「月光」という表題は、1832年に詩人のルートヴィヒ・レルシュタープ(Ludwig Rellstab)が付けたもので、ベートーフェンのジュリエッタ・グアッチャルディ伯爵夫人への叶わぬ恋という挿話とは関係がない。交響曲第1番(作品21)はすでに作曲され、ピアノ協奏曲第3番(作品37)とほぼ同時期に作曲された。ベートーフェンのピアノ・ソナタの中では、最も人気のある作品と言えるだろう。
 このCDにはこの2曲のほかに、1823年から24年に作曲された「6つのバガテル」(作品126)と1803年から1804年に作曲されたアダージョヘ長調(Kinsky WoO 57)が収録されている。
 演奏しているのは、すでに紹介した事のあるヨス・ファン・イムマゼールである。 イムマゼールはアントワープ生まれの鍵盤楽器奏者で、特にフォルテピアノ奏者であるが、現在はアニマ・エテルナ管弦楽団を指揮して、ベートーフェンの交響曲全曲などの録音もしている。使用している楽器は、1824年にヴィーンのコンラート・グラーフにより製作された6オクターヴ半、4ペダルのフォルテピアノである。この楽器は現在アントウェルペンの王立フランドル音楽学校の所有で、「肉屋博物館(Museum Vleeshuis)」(!)に貸与されている。1972年から1974年にデレク・アドラムによって修復された。楽器としては音域においても2曲のソナタよりも後、むしろ6曲のバガテルの作曲された時期に属するものである。グラーフの楽器には、金属の枠は使用されておらず、僅かな金属製の部品以外は木製であったが、非常に堅牢な楽器であったという同時代の証言がある。ベートーフェンは、1725年製のグラーフのフォルテピアノを、当時所有していたイギリスのブロードウッド製の楽器の修理中に借りていたが、その後所有することになり、現在はボンのベートーフェン・ハウスに所蔵されている。この楽器をイェルク・デームスがソナタ変イ長調作品110と6曲のバガテルを演奏したLPが以前にドイツ・ハルモニア・ムンディから出ていて、筆者が1970年にボンのベートーフェンハウスを訪れた際にこれを購入し、今も持っている。この様に、このCDで使用されているグラーフのフォルテピアノは、ベートーフェンの晩年の頃の楽器ではあるが、現代の復元楽器ではなく、数少ないオリジナル楽器による演奏であるところに価値がある。
 録音は1983年11月に楽器が所蔵されている博物館で行われた。このCDは、2009年4月1日発売のACC 10032の番号で入手可能である。

発売元:ACCENT

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