私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Flute Collection
AMON RA CD-SAR 19
演奏:Stephen Preston (flutes), Lucy Carolan (keyboards)

横笛は、世界中の様々な地域で古くから用いられて来た。先史時代の骨や木のフルートが各地で発掘されている。音楽演奏のためのフルートは、ヨーロッパに於いては中世からその存在が知られ、ルネサンスには円筒形の内管で、6穴のフルートが存在した。16世紀の終わりにはフランスで、吹き口側が太い円錐形の内管、基音の半音上を得るためのキー1個を備えた、いわゆるフラウト・トラヴェルソが作られ、18世紀に入って各国に拡がっていった。フランスのオットテール、ドイツのバッハやテレマン、イギリスのヘンデルなどが、フラウト・トラヴェルソのための音楽を作曲している。18世紀から19世紀の初めにかけては、時代の音楽的要求に従って、より多くの調整にも適合する楽器が求められ、徐々にキーの数が増え、テオバルト・ベーム(Theobald Boehm)によるキー・システムの開発に至る。ベーム式のフルートは、再び円筒管になっている。
 今回紹介するのは、スティーヴン・プレスト(Stephen Preston)が、8本のフルートによって、18世紀から19世紀前半のフルートのための作品を演奏したCDである。鍵盤楽器による伴奏はルーシー・カローラン(Lucy Carolan)で、曲に応じてチェンバロやフォルテピアノ計6台を演奏している。
 最初の曲は、ルイ=クロード・ダカン(Lous-Claude Daquin, 1694 - 1772)の「郭公(Le Couçou)」で、18世紀後半、フランスの作者不詳の象牙のフラウト・トラヴェルソで演奏されている。伴奏は1700年頃にイギリスのコートン・アストンによって製作されたスピネットである。象牙のフラウト・トラヴェルソは、つげなどの木製とは異なった独特の響きを持っている。次の「リュリ氏のエアー(Air De Mr De Luly)」はジャック・オットテール(Jaques Hotteterre Le Romain, c. 1680 - c. 1761)の編曲で、オットテールの楽器をスイスのヴィンケルマンが1983年に製作した複製によって、無伴奏で演奏されている。3曲目はヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ(Johann Joachim Quantz, 1697-1773)の「ソナタニ長調」で、プロイセンのフリートリヒ大王の所有であったと伝えられている作者不詳のフラウト・トラヴェルソを1980年にJ. ソールスビーが複製したものを用いている。伴奏はジェイコブ・カークマンの1756年製の2段鍵盤のチェンバロによっている。
 次の曲はジャック・デュフリー(Jaques Duphly, 1715 - 1789)の「ドラモンド(La De Drummond)」で、18世紀後半のファスベンダー作の黄楊のフラウト・トラヴェルソとコートン・アストン作のスピネットで演奏している。5曲目は、フランソワ・ドヴィエンヌ(Francois Devienne, 1759 - 1803)の「ソナタホ短調」で、18世紀後半パリのドルス作の黄楊のフラウト・トラヴェルソと1800年頃にヴィーンのミヒャエル・ローゼンベルガーによって製作されたフォルテピアノで演奏されている。次のジャン=ルイ・テュルー (Jean-Louis Tulou, 1786 - 1865)作の「アレヴィーの『薔薇の妖精』による幻想曲(Fantaisie Brillant Sur “La Fée Aux Roses (De Halevy)”)』は、トゥーロー作の8キーのフルートと1814年ヴィーンのヨハン・フリッツ作のフォルテピアノで演奏されている。
 7曲目のチャールス・ニコルソン作曲の「埴生の宿(Home Sweet Home)による変奏曲」は、この日本でも良く知られた歌曲の旋律に基づく12分半にも及ぶ変奏曲で、7つのキーを備えたフルートとロンドンのクレメンティ社が1822年が製作したグランドピアノで演奏されている。最後の曲は、シューベルトの「冬の旅」の「おやすみ」をテオバルト・ベームがフルートとピアノのために編曲した作品を、パリのゴドフロイが製作したベーム式フルートと1820年頃にヴィーンのコンラート・グラーフが製作したフォルテピアノで演奏している。
 フルートを演奏しているサイモン・プレストンは、バロックのフラウト・トラヴェルソなどのオリジナル楽器を演奏しているイギリスの演奏家として、イングリッシュ・コンサートやアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックとの共演などで活動している。トレヴァー・ピノックとバッハのフルート・ソナタ全曲の録音も行っている。それと並行してバレーの振り付けも手がけ、イギリスの王立バレー劇場などで上演されるバレーの振り付けを行うと同時に、バロックのバレーを専門としたバレー団も組織している。
 鍵盤楽器を演奏しているルーシー・カローランは、スコットランドのチェンバロ奏者として知られ、チェンバロだけでなくヴァージナル、クラヴィコード、フォルテピアノによって、エリザベス朝の音楽から現代曲まで幅広いレパートリーの演奏を行っている。
 このCDの存在意義は、一部復元楽器を含んでいるが、18世紀から19世紀初めにかけての様々なフルートと鍵盤楽器によって、同時代の曲を演奏していることにある。それによって、時代による音楽様式の変遷にともなう楽器の変化を音でたどる事が出来る。同じフラウト・トラヴェルソであっても、材質や構造の微妙な変化によって、その音色が異なることが実感出来るのである。
 アモン・ラはイギリスの古楽専門のレーベルで、ナクソスのウェブサイトの説明を引用すると「Amon Ra:Saydisc傘下の古楽専門レーベル。フィンチコック楽器博物館の古楽器を演奏した録音、ということで始められた。楽器の貴重さ、音質だけでなく、その演奏水準の高さが話題となった。」とある。このCDは、1984年12月にケントのゴードハーストにあるフィンチコック楽器博物館で録音された。Saydiscウェブサイトには、現在もこのCDが掲載されており、入手可能である。

発売元:AMON RA

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