私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Handel: Trio Sonatas Op. 2, Op. 5, Trio Sonatas for 2 violins & b.c.
Brilliant Classics 92192 (Handel Chamber Music <complete>)
演奏:L’Ecole d’Orphée

ゲオルク・フリートリヒ・ヘンデル(Georg Friedrich Händel, 1685 - 1759)のトリオソナタは、ロンドンのジョン・ウォルシュによって出版された作品2と作品5のほかにも出版されなかった作品がいくつか存在する。これらの単独の作品については、その作曲年など不明な点が多い。チャールス・バーニーが、1785年のヘンデル生誕100年の年に「ヘンデルを記念して(In Commemoration of Handel)」において紹介した6曲のトリオソナタは、その出所やヘンデルとの関係に不明な点が多く、HWV 380から385までの作品番号が与えられているが、疑わしい作品と考えられている。HWV 392から394までの3曲とHWV 403から405の3曲については、その作曲時期もばらばらで、自筆譜が存在するもの存在しないもの様々で、真作かどうか疑わしいものもある。
 今日作品2とされている6曲のトリオソナタ(HWV 386b - 391)は、1733年にロンドンのジョン・ウォルシュによって出版された。これら6曲の作品は、出版よりかなり前に作曲されたもので、最も早いもので第2番ト短調(HWV 387)が1699年頃、ヘンデルが14歳の頃の作品である可能性があると考えられている。第6番ト短調(HWV 391)は1707年頃の作品、第3番変ロ長調(HWV 388)は1717年から1718年、第4番ヘ長調(HWV 389)は1718年から1722年、第5番ト短調(HWV 390)は1717年から1722年、そして第1番ロ短調(HWV 386b)は1727年以前と推定されている。ただこの第1番には、出版譜とは異なる手稿が存在し、出版譜にある版がヴァイオリン、フルートと通奏低音の編成であるのに対し、異稿の方は作品2の他の5曲と同様2つのヴァイオリンあるいはオーボエあるいはフルートと通奏低音という編成で、1717年から1719年の間の作と考えられている。この作品2の6曲のトリオソナタは、すべて緩・急・緩・急の4楽章構成で、「教会ソナタ」の形式で統一されている。ヘンデルの器楽作品は、コレッリの影響が濃厚であるが、この作品2のトリオソナタは、その成立年が20年以上にわたっており、早い時期の作と考えられる第1番や第6番には、コレッリの影響が見られるが、1710年代の作品からは、いずれの楽章にもはっきりとしたヘンデルの様式が見られるようになっている。また、いくつかの楽章は、後にオラトーリオの序曲に転用された。
 ジョン・ウォルシュによって1739年に作品5として出版された7曲のトリオソナタは、この出版のために作曲されたもののようだ。冒頭の楽章は、前奏曲という名称は用いていないが、続く楽章では舞曲の形式が支配的で、「室内ソナタ」の形式を取っている。構成も4楽章から6楽章と統一されていない。これらの中で第4番は、すべての楽章がオラトーリオやオペラからの転用で、他の6曲とは際だって異なっている。この作品5は、ヘンデルの様式が明瞭に表れている。
 今回紹介するCDは、レコール・ドルフェー(L’Ecole d’Orphée)と言うアンサンブルの演奏による、ブリリアント・レーベルのヘンデルの室内楽全集を標題とした6枚組セットである。この録音は、1991年にイギリスのCRDによって行われたもので、そのライセンスを得て発売された廉価版である。CRDは、1965年に設立されたイギリスのレコード販売会社で、ヨーロッパやアメリカのレコードを輸入販売していた。1973年に最初の独自のレコードを発売、翌年に販売会社から分離して今日に至っている。このCDRに於いても、同じく6枚組のCDが販売されている。
 演奏をしているレコール・ドルフェーは、1975年にヴァイオリニストのジョン・ホロウェイによって設立されたアンサンブルだが、CRDにおける2種のCD以外の具体的な活動については明らかではない。ここで紹介するCDの演奏では、ヴァイオリンをジョン・ホロウェイ、ミカエラ・コムベルティ、アリソン・バリー、フラウト・トラベルソをスティーヴン・プレストン、リコーダーをフィリップ・ピケット、レイチェル・ベケット、オーボエをデイヴィッド・ライケンバーグ、チェロをスーザン・シェパード、チェンバロは主にルーシ・キャロランが、一部をロバート・ウーリー、ジョン・トルが担当している。主要メンバーは、いずれも今日イギリスのオリジナル楽器演奏の重鎮である。
 このセットには、ヘンデルの作品2と作品5のトリオソナタのほかにもう1枚、2つのヴァイオリンと通奏低音のためのトリオソナタを収めたCDが収められている。フリートリヒ・クリュザンダーが編纂したヘンデル協会版全集(HG)の第27巻(1879年刊)に収録された作品2はウォルシュによる出版譜とは異なって9曲からなり、その第3番にはヘ長調のソナタ(HWV 392)が収録されており、ウォルシュ版の第3番から第6番は1つずつ番号がずれていた。このCDには、このクリュザンダー版の第3番と第8番ト短調(HWV 393)、第9番ホ長調(HWV 394)および第1番の異稿ハ短調(HWV 386a)、さらに1738年頃の作とされているハ短調のソナタ(HWV 403)と1706年から1707年の作と思われるシンフォーニア(HWV 339)の6曲が収録されている。なお、6枚組の他の3枚は、ヴァイオリン、フラウト・トラベルソ、リコーダー、オーボエそれぞれの独奏と通奏低音のためのソナタをが収められている。
 このブリリアント・レーベルの6枚組は、現在も安価で購入できる。CRD盤の方は、1枚ごとには購入可能だが、6枚組の方は難しそうだ。

発売元:Brilliant Classics

    CRD


注)なお、ブリリアント・クラシックスのウェブサイトは、依然として未完成で、タイトルのサーチは出来ない状態にある。

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