私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Ludwig van Beethoven: Concerto for Piano and Orchestra No. 5, Op. 73 “Emperor”, Concerto for Violin And Orchestra, Op. 61
Sony Classical SK 63365
演奏:Jos van Immerseel (Fortepiano), Vera Beths (Violin), Tafelmusik, Bruno Weil (Conductor)

ベートーフェンの5曲のピアノ協奏曲の内、最初の2曲は、モーツァルトの影響、古典派の様式が明瞭に表れている作品である。第3番以降の3曲になって、ベートーフェンの個性がはっきりと表れてくる。最後のピアノ協奏曲である第5番変ホ長調作品73「皇帝」は、1809年に完成し、1811年にライプツィヒで初演された。ピアノ独奏は、すでに耳がほとんど聞こえなくなっていたベートーフェンではなく、若い教会のオルガニストであったフリートリヒ・シュナイダーが行った。ヴィーンでの初演は、1811年2月にカール・ツェルニーのピアノ独奏で行われた。「皇帝」という名称は、ベートーフェン自身によるものではないが、同時代に由来するらしい。特にその堂々とした英雄的楽想の第1楽章にちなんで付けられたのであろう。
 ベートーフェンの唯一のヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61は、1806年に完成し、同年12月23日に初演された。しかしこの曲は当初あまり評価されず、19世紀中頃になって、メンデルスゾーンによって復活され、以降代表的なヴァイオリン協奏曲のひとつとなっている。ヴァイオリニストの技巧を誇示するのではなく、むしろ交響曲に近い作品としての表現に組み込まれたヴァイオリン独奏という点で、画期的な作品であった。ティンパニーがピアノで5つの音を打って始まる第1楽章冒頭は、非常に印象的である。ニ長調という調性も含め、ベートーフェンの作品としては珍しく、明朗で軽い作品である。
 今回紹介するCDは、ブルーノ・ヴァイル指揮、ターフェルムジークの演奏による5曲のピアノ協奏曲とヴァイオリン協奏曲のCD3枚のシリーズの1枚である。「皇帝」のフォルテピアノ独奏はヨス・ファン・イムマゼール、ヴィオリン協奏曲の独奏はヴェラ・ベスである。イムマゼールについては、すでに「 ベーレンライター版によるベートーフェンの交響曲第5番」「 モーツァルトのピアノ協奏曲第20番と21番をオリジナル編成で聴く」などですでに紹介した。現在ではアニマ・エテルナ管弦楽団を指揮して、ベートーフェンの交響曲や、自らフォルテピアノを演奏して、モーツァルトのピアノ協奏曲を演奏しているが、ここでは独奏者として登場している。演奏しているフォルテピアノは、19世紀初頭、ライプツィヒのヨハン・ネポムク・トレンドリンによって製作されたヴィーン・アクションなど、当時のヴィーンのフォルテピアノの構造を有した楽器である。この楽器は1996年、アントウェルペンのヤン・ファン・デン・ヘメルによって修復された。
 ヴァイオリンを演奏しているヴェラ・ベスは、1946年生まれのオランダのヴァイオリニストで、モダン・オーケストラと共演する一方、フランス・ブリュッヒェンの18世紀オーケストラや、アネル・ビュルスマ等とともに室内楽団、アルキブッデリ(L’Archibudelli)を組織して活動している。ベスが演奏しているヴァイオリンは、1727年アントーニオ・ストラディヴァリ作の楽器である。
 ターフェルムジークあるいはターフェルムジーク・バロック・オーケストラは1979年にカナダのトロントで創設された楽団で、1981年からジーン・ラモン(Jeanne Lamon)が音楽監督をしている。バロック時代の作品、バッハ、ヘンデルやヴィヴァルディ等の曲は指揮者なしで、古典派の作曲家、ハイドン、モーツァルトあるいはベートーフェンの作品は、ブルーノ・ヴァイル等の指揮者を立てて演奏している。
 このCDに於ける演奏は、過度の感情移入を排して、ある意味即物的な演奏解釈と言えるが、必ずしも無味乾燥なものとは言えない。その演奏スタイルは、イムマゼールと共通するところがある。
このソニー・クラシカル・レーベルのCDは、シリーズ3枚とも現在廃盤になっているようである。しかし、販売店によっては、まだ在庫があるようで、入手出来る可能性はある。

発売元:Sony BMG Classical

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