Beethoven: Symphonies 4 & 5
L’Oiseau-Lyre 417 615-2
演奏:The Academy of Ancient Music, Christopher Hogwood (Direction)
交響曲第4番変ロ長調作品60は、1806年にオッペルスドルフ伯爵フランツの注文によって作曲され、1807年3月にヴィーンのロプコヴィッツ候の宮廷で初演され、公開初演は同年11月15日にブルク劇場で行われた。先行する交響曲第3番と後の交響曲第5番に挟まれたこの交響曲は、この2曲と比較すると、ベートーフェン特有の独創性には不足するが、後にシューマンが「二人の北欧の巨人に挟まれたギリシャのほっそりとした乙女」と評した作品で、ベートーフェンの生存中、最も好まれた交響曲であった。曲全体として、親密で明るく、牧歌的な表現で、幸福感に満ちている。
ベートーフェンの交響曲第5番ハ短調作品67の作曲については、構想から完成まで、かなりの時間を要している。最初のスケッチは1800年にまでさかのぼり、作品の具体的な構想は、1803年から1804年にかけて、したがって、「エロイカ交響曲」の完成と第4交響曲作曲の間にすでに行われていた。そして最終的な作曲は、1807年から1808年の初めにかけて、交響曲第6番と並行して行われた。初演は1808年12月22日に、アン・デア・ヴィーン劇場で、交響曲第6番も含む4時間にわたる演奏会で行われた。初演当初は、第5番と第6番の番号は、現在とは逆に付けられており、後になって現在の番号になった。
交響曲第5番は、第9番と並んで、最も有名な交響曲であるとともに、クラシック音楽の中で最も人気のある作品と言えよう。第1楽章は、序奏無しに、有名な主題、かつてベートーフェンが云ったと言われていた「かくのごとく運命は戸をたたく(So pocht das Schicksal an die Pforte)」ような主題で始まる。この主題は、第1楽章だけではなく、この交響曲全体の主題として、他の楽章にも現れる。この第1楽章ばかりでなく、全体を通じて凝縮した筋肉質な構成が、この交響曲を独創的なものにしている。そして、ハ短調で始まりハ長調の第4楽章で終わるこの交響曲は、「敗北から勝利へ」、「夜の闇から光りあふれる昼へ」あるいは、「苦悩を通じて歓喜へ」といった理念の表現と解釈され、ロマン主義的ベートーフェン解釈の基となった。
今回紹介するクリストファー・ホグウッド指揮、アカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックの演奏によるベートーフェンの交響曲第4番と第5番のCDは、1986年8月にロンドンで録音された。ベートーフェンの交響曲のオリジナル編成による録音は、おそらくロイ・グッドマン指揮のハノーヴァー・バンドによって1982年と1983年、1987年と1988年に分けて行われたのが最初と思われるが、1986年から1988年にかけては、このアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージック以外にも、ロジャー・ノリントン指揮、ロンドンクラシカル・プレイヤーズやフランス・ブリュッヒェン指揮、18世紀オーケストラなど、続々と録音されていた。これに先立って、ホグウッドとアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックは、1970年代末から、モーツァルトの交響曲の録音を行っていた。80年代に入って、イギリスのオリジナル楽器の演奏者達が次第に増加し、古典派の管弦楽曲の演奏が可能な状態になって来たのである。
今回紹介するCDにおける編成は、第1、第2ヴァイオリン各8、ヴィオラとチェロが各4、コントラバス2、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2、それにピッコロとコントラ・ファゴット各1、ホルン3、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ1、それにフォルテピアノ1の46人である。交響曲第4番では、ピッコロ、コントラファゴット、トロンボーンは編成されていないので、41人編成ということになる。ロジャー・ノリントンとロンドン・クラシカル・プレイヤーズの編成は、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが各4名多い。ホグウッド指揮の演奏は、ノリントン指揮のようにメトロノーム指示を明記して居らず、第4番、第5番とも全体的にテンポは遅めである。それと、この時期のオリジナル楽器による演奏で共通しているのは、交響曲第5番の第3楽章を、A-B-A-B-A’と、反復記号を生かした解釈をしていることで、「ベーレンライター版によるベートーフェンの交響曲第5番」で紹介したベーレンライター版とは異なって、CD添付の小冊子に掲載されているウィリアム・ドラブキンの解説では、初演の際はA-B-A-B-A’で演奏されたが、その後総譜作製の際に誤りが生じ、初版を出版したブライトコプ・ウント・ヘルテルが総譜を誤って解釈して、反復記号を除いてしまったと述べ、5部からなる反復記号有りの演奏を支持している。
クリストファー・ホグウッド指揮、アカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックの演奏によるモーツァルトやベートーフェンの交響曲のCDは、残念ながら現在デッカ、オアゾ・リールでは廃盤になっている。アニマ・エテルナなど、その後新たな演奏が多く登場したとはいえ、1980年代後半の録音が消えてしまって良いということにはならない。これらの録音が再版されることを期待したい。
発売元:Decca Classics
注)ベートーフェンの交響曲第4番と第5番の成立過程については、ウィキペディアドイツ語版の”Ludwig van Beethoven“、”4. Sinfonie (Beethoven)“および”5. Sinfonie (Beethoven)“を参考にした。
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