私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Johann Jacob Froberger: Complete Fantasias - Complete Canzonas - Toccatas
Aeolus AE 10501
演奏:Bob van Asperen (Organ)

ヨハン・ヤーコプ・フローベルガー(Johann Jakob Froberger, 1616 – 1667)の父はハレの出身で、シュトゥットガルトに移り、1621年に宮廷楽団の楽長に任命された。ヨハン・ヤーコプの成長期は、ちょうど30年戦争の最中で、その混乱で両親を失っている。ヨハン・ヤーコプ(以後フローベルガーと記す)は、21歳の1637年にヴィーンの宮廷オルガニストに採用され、その年の11月から3年半の間、イタリアのジロラーモ・フレスコバルディのもとで学んだ。ヴィーンに戻ったフローベルガーは、1641年4月から1645年10月まで、再び宮廷オルガニストをつとめた。1645年から1653年の間については記録が残っていない。しかしその間の1549年より前にフローベルガーは再びイタリアを訪れ、イタリア人の作曲家、ジアコモ・カリッシーミ(Giacomo Carissimi, 1605 – 1674)やローマで活動していたドイツ人のイエズス会員で学者のアタナジウス・キルヒャー(Athanasius Kircher, 1602 – 1680)に会っている。ローマからの帰路には、フィレンツェ、マントゥア、レーゲンスブルクに立ち寄り、1594年にはドレースデンで宮廷オルガニストのマティアス・ヴェックマンと競演をし、その縁で親交を結ぶこととなった。1549年8月に行われたマリア・レオポルディーネ皇妃の葬儀で、オラニエ候の大使であったウィリアム・スワンの知己を得て、その縁で詩人のコンスタンティン・ホイヘンスと知り合い、親交を結ぶこととなった。コンスタンティン・ホイヘンスは、天文学者クリスティアーン・ホイヘンスの父親である。その後もフローベルガーは、ユトレヒトやブリュッセル、パリなど、オランダ、ドイツ、フランス各地を訪れ、パリではデニス・ゴルティエや若きルイ・クープランにも出会っている。1653年4月には、再びヴィーンの宮廷オルガニストに就任したが、1657年に皇帝フェルディナントIII世の後を継いだレオポルトI世は、宮廷楽団を縮小し、フローベルガーもその地位を失うこととなった。その後1662年頃から、フローベルガーは音楽を愛するヴュルテンベルク=メムペルガルトのシビラ公妃の庇護を受けて、ヴュルテンベルク公領のメムペルガルト(現在フランスのモンベリア<Montbéliard>)にあるエリコー城に住んでいた。そしてフローベルガーは、1667年5月6日か7日に城内で卒中発作のため死亡した。
 フローベルガーの作品の全体像は、未だに完全には把握されていない。ヴュルテンベルク公家に残されたはずの手稿は、行方不明になっており、時折現れる手稿によって、作品は増え続けている。2006年にロンドンのサザビーズで競売に付された自筆譜は、20曲を含み、その内15曲は未知の作品である*。しかし、この自筆譜の詳細は、落札者が非公開になっており、究明されていない。フローベルガーは、もっぱら器楽曲、特に鍵盤楽器のための作品を作曲した。それらの曲が、オルガン、チェンバロあるいはクラヴィコードのいずれで演奏されるのかは、しばしば判定が難しい。その作品に最も大きな影響を与えたのはイタリアのジロラーモ・フレスコバルディであるが、何度か訪問したフランスのパリやドイツ、オランダなどで出会った音楽家や作品の様式も取り入れて、独自のスタイルを生み出した。新しく見つかった自筆譜には、ルイ・クープランやフランソア・ロベルディ(François Roberday, 1624 – 1680)の影響が強く表れている曲が含まれている。特にフーガ、そして組曲やトッカータは、 ベーム、ラインケン、ヴェックマン、ブクステフーデ、パッヒェルベル、そしてバッハに至るドイツの音楽家達の作品に大きな影響を与えた。
 今回紹介するCDは、エオルス・レーベルがボブ・ファン・アスペレンの演奏で、”Froberger edition”と題してシリーズで発売しているものの第5巻である。第1巻から第4巻までは、主に組曲をチェンバロで演奏しており、この第5巻は、ファンタージアとカンツォーナの全曲およびトッカータ4曲をオルガンで演奏している。現在第7巻まで発売されているが、第6巻はリチェルカーレ全曲、第7巻はカプリッチョ全曲を収録している。トッカータはこれまで20曲有ったので、残りの16曲は、いずれ録音されると思われる。なお、これらの曲数の中には、2006年に存在が分かった前述の自筆譜に含まれる今まで未発見の15曲は含まれていない。
 アスペレンが演奏しているのは、イタリア、ボローニャの聖マルティノ教会にある、1556年にフェラーラのジオヴァンニ・チプリによって建造されたオルガンである。チプリの当初の構想では、ピッチ a’ = 465 Hz、音域はショートオクターヴを含むFF - c”、10のレギスターを有するものであったが、建造1年後に”Cornamuse over Corneti”という、おそらくはレガ-ルのようなリードパイプを追加した。2世紀後の1752年から1755年にかけて、フィリッポとフランチェスコ・ガッティが鍵盤を5オクターヴに拡大し、”Voce Umana”を追加し、ピッチを約半音下げた。さらに1817年に、ヴィンツェンツォ・マツェッティが3つのレギスターを付け加えた。1979年から1995年にかけて全体的は修復が行われ、オリジナルの構想をもとに復元された。現在のオルガンは、音域C - c”’ の57鍵(ショートオクターヴを含む)、12のレギスター、音域C - Gisの17鍵盤のペダル(ショートオクターヴ)を有し、ピッチはa’ = 435 Hz、中全音音律に調律されている。このオルガンは、すでに紹介したボローニャの聖ペトロニオ教会やサン・プロコーロ教区教会のオルガンと建造時期やパイプの構成に大きな相違はないが、演奏しているファン・アスペレンのレギスター設定のよるのか、場合によって非常に輝かしい響きがする。特にこの楽器の基礎となるプリンシパル系のパイプの積極的採用が、そのような響きを生み出しているのだろう。
 エオルスは1997年にクリストフ・マルティン・フロムメンとウルリヒ・ローァシュナイダーによって創立されたドイツのレーベルで、拠点をケルン近郊のノイスに置いている。そのレパートリーは、バロック音楽、特にオルガンとチェンバロの曲を中心とし、すべてオリジナル楽器による演奏によっている。今回紹介したCDは、現在も入手可能である。

発売元:Aeorus

* この2006年にサザビーズで競売に付されたフローベルガーの自筆譜については、ファン・アスペレンによる総括的な報告が、イリノイ大学が刊行している”Journal of Seventeenth-Century Music”, Volume 13, No. 1に掲載されている。Bob van Asperen, ”A New Froberger Manuscript”

注)フローベルガーの生涯と作品については、CDケースに綴じ込まれた小冊子のファン・アスペレンによる解説と、ウィキペディアドイツ語版の”Johann Jacob Froberger“を参考にした。

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