私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Samuel Scheidt: Tabulatura nova
ATMA Classique ACD2 2317
演奏:Kevin Komisaruk(Organ)

ザームエル・シャイト(Samuel Scheidt, 1587 - 1654)は、基礎的音楽教育を受けた後1603年にハレのモーリッツ教会の補助オルガニストに任命された。1607年から1609年の間には、アムステルダムの旧教会のオルガニストであったヤン・ピエーテルスゾーン・スウェーリンクのもとで学び、ハレに戻ると、マグデブルク大司教、ブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ヴィルヘルムの宮廷オルガニストに迎えられた。1614年から1616年にかけては、ハレでミヒャエル・プレトリウスとともに働いた。シャイトはそのオルガンについての造詣を買われて、1618年にはアイスレーベンに、1619年にはミヒャエル・プレトリウス、ハインリヒ・シュッツ、ヨハン・シュターデとともにバイロイトでオルガンの検収を行った。シャイトが活動していた時期は、30年戦争と重なっており、1628年にはクリスティアン・ヴィルヘルム伯がヴァレンシュタインの軍隊から逃れてハレを去ると失職し、ハレ市がそれを救済するために音楽監督の地位を創設して彼を任命したがその後再び失職するなど、後半生は不安定な地位にあった。
 シャイトは、1621年の”Cantiones sacrae”をはじめとして、1631年から1640年にかけての”Geistliche Konzerte”4部など多くの声楽曲を出版しているが、1624年に出版したタブラトゥーラ・ノーヴァ(Tabulatura nova)は、ドイツで出版された声部ごとに1段の五線譜による総譜形式の鍵盤楽器のための最初の作品集である。シャイトが「新しい(nova)タブラトゥーァ」と題したのは、この様に五線譜の総譜形式を採用したことを示すためであった。 通常はドイツ式タブラトゥーラで出版される曲集を五線譜にすることにより、ドイツ国内だけでなく、他の国の音楽家にも利用出来るものになった。シャイトはその巻頭でドイツのオルガニストに、声部ごとの五線譜からなるこの作品集の楽譜は、容易にタプラトゥーラにすることが出来ると説明している。この曲集は3部からなり、第1部と第2部には、コラールや詩編歌の変奏曲、ファンタージアやトッカータ、フーガ、カノン、世俗歌謡や舞曲による変奏曲を含んでいる。第3部は、ラテン語のキュリエやマグニフィカート、聖歌による変奏曲などで構成されている。コラールや詩編歌による変奏曲は、スウェーリンクの様式の延長線上にあり、定旋律と対位声部による展開や、主旋律に装飾、変奏を加えて行くプロテスタントの教会音楽が生み出した様式であることが分かる。トッカータは16世紀から17世紀のイタリアの作曲家の作品同様、短い音符で音階を上下する走句が多く見られる。
 今回紹介するCDは、「タブラトゥーラ・ノーヴァ」の全曲ではなく、様々な形式の作品を8曲抜粋した、ATMAClassiqueレーベル盤である。演奏をしているのは、カナダ人のオルガン、鍵盤楽器奏者のケヴィン・コミサルクである。コミサルクは現在トロント大学で音楽の演奏と理論の教師をしていると同時に、幅広い演奏活動を行っている。
 コミサルクが演奏しているオルガンは、トロント大学、ノックス・カレッジの礼拝堂の北端にあるギャラリーに、1991年に新設されたものである。このオルガンの建造に当たっては、当初から北ヨーロッパ・バロックのオルガン曲を演奏するにふさわしい楽器にすることが定められ、スウェーデンのリューフスタ・ブルクにヨハン・ニクラス・カーマンが建造したオルガンを手本に、ブルストヴェルクを加え、3段鍵盤とペダル、32のレギスターを持つオルガンとして建造された。主鍵盤とリュックポジティフは54鍵、C - f”’の音域、ブルストヴェルクはショートオクターヴ、47鍵、CDEFGA - d”’の音域、ペダルは30鍵、C - f’の音域を備えている。ピッチはa’ = 440 Hz、調律はドイツ、ノルデンの聖ルートゲリ教会のシュニットガー・オルガンに、ユルゲン・アーレントによる修復の際に採用された1/5シントニックコンマ中全音律に多少の修正を加えたものを採用している。録音は2004年7月27日と28日に行われ、2005年1月に発売された。
 アトマ・クラシーク(ATMA Classique)は、カナダ、モントリオールに拠点を置くレーベルで、創立からおよそ15年になり、中世から現代までのクラシック音楽を主体に、一部ポピュラー音楽、タンゴなどの含め約300タイトルを有している。

発売元:ATMA Classique

注)ザームエル・シャイトと「タブラトゥーラ・ノーヴァ」については、ウィキペディアドイツ語版の”Samuel Scheidt“を主に参考にした。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
クラシック音楽鑑賞をテーマとするブログを、ランキング形式で紹介するサイト。
興味ある人はこのアイコンをクリックしてください。

音楽広場
「音楽広場」という音楽関係のブログのランキングサイトへのリンクです。興味のある方は、このアイコンをクリックして下さい。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« ヨーロッパ各... ヨーロッパ各... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。