私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
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バッサーノに代表される16世紀から17世紀前半のイギリス宮廷の音楽
中世、ルネサンスの音楽
/
2010-11-13 11:14:34
Bassano: Viva l’amore XVI - XVII secolo
Opus111 OPS 30-239
演奏:Capilla Flamenca, Flanders Recorder Quartet
イギリスのヘンリーVIII世(Henry VIII of England, 1494 - 1547、在位期間は1509年から1547年)は、専制君主であり、イギリス国教会の創設など強権的な施政を行ったことで知られているが、その一方で音楽を好み、宮廷音楽を確立したことでも知られている。自ら様々な楽器を奏し、作曲も行ったと考えられている。宮廷音楽を組織するに当たり、当初はフランドル地方から、その後イタリアから多くの音楽家を招いた。リコーダー・コンソートの起源は、1531年頃にヴェネツィアのバッサーノ一族の4人の兄弟が宮廷のショームとザックバット楽団のメンバーとして招かれたことに始まったとされている。このときのバッサーノ兄弟の滞在は短い期間であったが、1538年にその内の一人、アンソニー・バッサーノI世が様々な楽器の製作者としてロンドンに戻り、その次の年には4人の兄弟、アルヴァイス、ジョン、ジャスパー、バプティスタがロンドンにやって来て、宮廷のリコーダー・コンソートのメンバーとなった。以後3世代にわたって、バッサーノ一族はロンドン宮廷のリコーダー・コンソートの中核をなした。やがてバッサーノ一族をはじめとした外来の音楽家にイギリスの音楽家が加わり、エリザベスI世治下の音楽の隆盛へと向かって行くのである。
今回紹介するCDは、その表題に「バッサーノ(Bassano)」と付されてはいるが、実際には16世紀初めから17世紀前半に至るリコーダー・コンソート曲を中心としたイギリスの宮廷音楽を紹介するものである。ヘンリーVIII世の作とされる2曲とジョン・ロイド(John Lloyd, c. 1473 - 1523)作のパズル・カノン2曲がヘンリーVIII世時代を代表する。リコーダー・コンソートは、当初ディスカント(アルト)、テノール、バセット、バスの4声であったが、やがてテノールとバスの間に1声加え5声に、そして1575年から1580年の間にさらに1声が加わり6声となった。このCDに収録されている他の曲は、バッサーノ一族の3人の他、アルフォンソ・フェラボスコI世(Alphonso Ferrabosco I, 1543? - 1588)、ジョン・コペラリオ(John Coperario, c 1570/1580 - 1626)、オラツィオ・ヴェッキ(1550 - 1605)、ジェームス・ハーデン(James Harden, ? - 1626)、エドワード・ブランクス(Edward Blancks, ? - 1633?)それにアンソニー・ホルボーン(Anthony Holborne, c. 1545 - 1602)の作品である。これに加え、オルランド・ディ・ラッソ(Orlando di Lasso)とルカ・マレンツィオ(Luca Marenzio, 1553/54 - 1599)の作品が1曲ずつ加えられている。以前に「
ルネサンス末イギリスのコンソート音楽集、アントニー・ホルボーンの作品
」で紹介したホルボーンの作品は6曲収録されている。
今回紹介するのは、フランダース・リコーダー・クヮルテット、カピッラ・フラメンカ、それにリュート奏者として佐藤豊彦とフィリップ・マルフェイ(Philippe Malfeyt)が加わった演奏によるOpus 111レーベルのCDである。 フランダース・リコーダー・ クヮルテットは、1987年に4人のリコーダー奏者によって結成されたグループで、ベルギーでの本来の名称は”Vier Op'n Rij(4人1列)”と言い、リューヴェンを根拠としている。メンバーは当初バルト・スパンホーフ(Bart Spanhove)、ジョリス・ファン・ゲーテム(Joris Van Goethem)、パウル・ファン・ルイ(Paul Van Loey)、吉嶺史晴(Yoshimine Fumiharu)の4人だったようだ。吉峯史晴は、東京学芸大学卒業後ベルギー政府給費留学生としてレメンス・インスティチュート、およびブリュッセル王立音楽院で学び、2001年までベルギーを拠点にして演奏活動を行っていたが、現在は日本でリコーダー奏者、作曲家、リコーダー指導者として活動している。吉嶺の後は何人かメンバーが替わったようだが、現在はトム・ビーツ(Tom Beets)が加わっている。このCDでは、さらに3人の奏者が加わっている。使用楽器は、「バッサーノ」ルネサンス・リコーダーとして、アドリ・ブロイキンクとボブ・マーヴィン作の計17本があげられている。解説書には記されていないが、
フランダース・リコーダー・ クヮルテット
のウェブサイトにある楽器リストによると、ピッチはa’ = 465 Hzのようだ。
カピッラ・フラメンカは、同じくリューヴェンを拠点に活動している声楽グループで、4人の男性歌手が本来のメンバーだが、必要に応じて他の歌手、器楽アンサンブルが加わる。このCDでは、ソプラノとテノールが加わり、6人で構成されている。
収録されている曲は、リコーダー・コンソートによるものばかりでなく、声楽曲、それに佐藤豊彦の独奏によるリュート曲3曲も含まれている。ルネサンスの器楽曲は、宗教的、世俗的声楽曲を編曲したものが多くあり、このCDでもそのような曲が含まれており、16世紀から17世紀前半のイギリス宮廷の音楽を多面的に紹介している。
フランダース・リコーダー・ クヮルテットは、1997年からOpus 111レーベルで一連の録音を行っており、その一つが今回紹介する “Bassano: Viva l’amore XVI - XVII secolo(バッサーノ:愛よ万歳、16 - 17世紀)”で、1998年に録音された。Opus 111レーベルは、以前にも紹介したが、エラートのプロデューサーであったヨランタ・スクラ(Yolanta Skura)が創設したレーベルで、エウローパ・ガランテの「四季」は最も売れたCDであった。スクラは1997年に引退し、レーベルはフランスのナイーヴに引き取られた。しかし現在、ナイーヴのサイトで、Opus 111の録音は、あまり販売されていないようである。今回紹介したCDも見当たらない。
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