私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
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ベルナール・フォクルールの演奏によるバッハのオルガン曲全集を聴く
J. S. バッハ
/
2010-02-13 10:55:30
Johann Sebastian Bach: Gesamte Orgelwerke
RICERCAR RIC 289
演奏:Bernard Foccroulle
リチェルカール・レーベルで発売されていた、ベルナール・フォクルールの演奏によるバッハのオルガン曲全集が、16枚のCDを厚紙の箱に入れたセットで2009年10月に発売された。もともとリチェルカールでは、「バッハオルガン曲集」として2枚組を含めたIからXVまでのCDを、1982年から1997年にかけて録音し、発売していた。そしてこれまでにも、時代別のセットとしても発売されていたが、今回これらをひとまとめにして全集としたのである。
バッハのオルガン曲の「全集」と言う場合、バッハの作品であることが疑いない大半の作品に関しては問題ないが、従来から疑わしい作品とされ、新バッハ全集でも当初の巻から除外された曲などを含めるかどうかが問題となる。ただ、新バッハ全集に於いても、第3巻「個々に伝承されたコラール作品」のように、自筆譜のある曲まで除外するなど、杜撰に編纂された例もあり、曲の選択は簡単ではない。このフォクルールによる全集には、上記新バッハ全集第IV部門第3巻など当初予定されていた巻から除外されたが、第IV部門第10巻、第11巻に掲載された曲がかなり収録されている。それでも僅かではあるが、バッハ作品目録の最新版である1998年刊のBWV IIaに掲載されているにもかかわらず、収録されていないものがあるが、それらの多くは真作かどうか疑問のある作品であり、これを理由に「全集」の名に値しないと言うほどの事ではない。また、「バッハの作とされている作品(Zugeschriebene Werke)」と言う標題で、真作であるかどうか疑問が呈されている曲が、2枚のCDに収録されているが、これらの曲と、それ以外の部分に収録されている作品の幾つかとの区別は、必ずしも明確ではない。例えば、CD IIIに収められている5曲のコラール曲にはBWV番号がなく、上述のBWV IIaには掲載されていない作品が4曲含まれている。これに加え、従来から鍵盤楽器のための作品に分類されているファンタージア、前奏曲、フーガなどが11曲収録されている。
この16枚組の全集は、単にすでに発売されているCDの原盤を寄せ集めたものではなく、部分的ではあるが再構成されている。一例を挙げると、元のCDではトリオソナタ(BWV 525 - 530)とともに2枚組のCDに収録されていた「シューブラー・コラール」(BWV 645 - 650)は、ライプツィヒ時代のいわゆる「18のコラール」(BWV 651 - 668)等を収めた2枚目のCD(XIV)に移され、その一方トリオソナタの2枚目のCD(XVI)には、バッハの作ではないと言う意見が多いが、依然として演奏されることが多い「8つの小前奏曲とフーガ」(BWV 553 - 560)他が収録されている。また、2008年に新たに録音され、「
初期からオルガンの名手バッハへ至る作品を聴く
」で紹介したCDに収録されている曲は、以前に録音されたものに代えて収められている。 今回の「全集」のCDは、作曲された時代別に構成され、早いものから順にCDの番号が付されている。といって、厳密に作曲された順というわけではない。これは、実際に多くの曲で、作曲時期が明確には分かっていない以上、やむを得ないことである。ただ、各CDへの曲の配分については、本来からまとまった作品、例えば「オルゲルビュッヒライン」や「クラフィーア練習曲集第3部」等の場合は別として、単独のコラールや前奏曲(トッカータ)とフーガなどが入り混じって収録されていて、実際に特定の曲を聴きたい場合、いちいち添付の小冊子のトラックリストを繰って探さなければならない点が非常に不便である。場合によっては、収録時間の帳尻合わせに配分されたとしか思えないものもある。この点に限って言えば、コープマンの全集の方が優れている。
この全集のもう一つの特徴は、ゴットフリート・ジルバーマン作の4台、シュニットガー・オルガン3台を始め、合計15台の歴史的オルガンを使用していることにある。フォクルールは、添付の解説書で、北ドイツ、チューリンゲン、ザクセンのオルガンの特徴を備え、バッハが折りに触れ提案したり、検査、試奏したオルガンについて記した文書から分かる特徴を備えた楽器を使用したと記している。初期の作品では、チューリンゲン地方の楽器とハンブルクの聖ヤーコビ教会のシュニットガー・オルガンを、ヴァイマール時代の作品には、フランスやイタリアのオルガンの影響を受けた周辺地域のオルガンを、そしてライプツィヒ時代の作品には、主としてゴットフリート・ジルバーマン作のオルガンを使用している。唯一の例外として、1996年にベルギー、レッフェの修道院にドミニク・ショットによって、ゴットフリート・ジルバーマンの様式によって建造された2段鍵盤とペダル、25のレギスターを備えた新しいオルガンが使用されいる。しかしこのオルガンは、モダン・オルガンではなく、バロック・オルガンの特徴を備えた楽器であり、歴史的オルガンと見て差し支えない。1982年以来、時期的にもまた設置された教会によっても異なる空間条件下での録音であるが、全体を通して聴くと、いずれも室内空間の響きを取り入れながらも、明瞭にオルガンの音を捉えた録音という点で共通している。パフローダの村の教会は、非常に残響の少ない空間であることが、解説書に注記されている。
16枚のCDの概要は、次の通りである:
I 初期のオルガン曲(旧盤:X)
初期の作品と見られる前奏曲(トッカータ、ファンタージア)とフーガ
及びコラール編曲
ハンブルク、聖ヤーコビ教会のシュニットガー・オルガン
1997年録音
II 初期のオルガン曲(旧盤:XIII)
ノイマイスター手稿のコラール
チューリンゲン州、ベッテンハウゼン、聖十字架教会のデーリング・オルガン
1995年録音
III 初期のオルガン曲(旧盤:XIV、1曲は2009年盤から)
前奏曲(ファンタージア)とフーガ、コラール編曲
チューリンゲン州、ツェラ=メーリス、ブラジウス教会のロムメル・オルガン
1996年録音
オランダ、グロニンゲン、マルティニク教会のシュニットガー・オルガン(BWV 1128のみ)
2008年録音
IV 初期のオルガン曲(旧盤:XII、1曲は2009年盤から)
コーラル編曲、フーガ、前奏曲(ファンタージア)とフーガ
ザクセン州、ファフローダ村の教会のジルバーマン・オルガン
ザクセン州、フライベルク、聖ペテロ教会のジルバーマン・オルガン
いずれも1995年録音
オランダ、グロニンゲン、マルティニク教会のシュニットガー・オルガン(BWV 766のみ)
2008年録音
V 初期のオルガン曲(旧盤:XI、XV)
前奏曲とフーガ、フーガ、コラール編曲等
ザクセン州、フライベルク、聖ペテロ教会のジルバーマン・オルガン
1995年録音
ベルギー、ディナン近郊レッフェの修道院のトーマス・オルガン
1997年録音
VI ヴァイマール時代のオルガン曲(旧盤:IV)
ファンタージア、フーガ、パストラーレ等
バイエルン=アルゴイ地方、オットボイレン修道院の三位一体オルガン
1982年録音
VII オルゲルビュッヒライン(旧盤:II)
スイス、アルゴイ地方、ムーリの修道院教会のショット・オルガン
1985年録音
VIII ヴァイマール時代のオルガン曲(旧盤:V)
前奏曲(トッカータ)とフーガ、コラール編曲
ニーダーザクセン州、ノルデン、ルートゲリ教会のシュニットガー・オルガン
1988年録音
IX ヴァイマール時代のオルガン曲(旧盤:VI)
前奏曲(トッカータ)とフーガ、コラール編曲
スイス、アルゴイ地方、ムーリの修道院教会のショット・オルガン
1990年録音
X ヴァイマール時代のオルガン曲(旧盤:VII、XV、I)
ヴィヴァルディの協奏曲の編曲、前奏曲とフーガ、トリオなど
ハンブルク近郊、シュターデ、聖ヴィルハーディ教会のビールフェルト・オルガン
1990年録音
アムステルダム、新教会の主オルガン
1984年録音
ベルギー、ディナン近郊レッフェの修道院のトーマス・オルガン
1997年録音
XI クラフィーア練習曲集第3巻(旧盤:III-1)
オランダ、グロニンゲン、マルティニク教会のシュニットガー・オルガン
1996年録音
XII クラフィーア練習曲集第3巻ほか(旧盤:III-2、I)
ほかにトッカータ(ファンタージア)とフーガ、パッサカリアなど
オランダ、グロニンゲン、マルティニク教会のシュニットガー・オルガン
1996年及び2008年録音
XIII ライプツィヒ時代のコラール(旧盤:VIII-1)
18のコラール(1)
ザクセン州、フライベルク、聖マリア聖堂のジルバーマン・オルガン
1991年録音
XIV ライプツィヒ時代のコラールほか(旧盤:VIII-2、IX)
18のコラール(2)、コラール「高き天より私はやって来た」にもとづく
カノン変奏曲、シューブラー・コラール、前奏曲とフーガ
ザクセン州、フライベルク、聖マリア聖堂のジルバーマン・オルガン
1991年録音
バーデン=ビュルテンブルク州、ネレスハイムの修道院のホルツハイ・オルガン
1992年録音
XV トリオソナタ第1,2,5番(旧盤:IX-1)
ほかに前奏曲とフーガイ短調(BWV 548)
ザクセン州、ポーニッツのジルバーマン・オルガン
1992年録音
XVI トリオソナタ第3,4,6番ほか(旧盤:IX-2、XV)
ほかに8つの前奏曲とフーガなど
バーデン=ビュルテンブルク州、ネレスハイムの修道院のホルツハイ・オルガン
1992年録音
ベルギー、ディナン近郊レッフェの修道院のトーマス・オルガン
1997年録音
添付の解説書は、従来のCDの解説を集めたものではなく、フォクルールによる収録作品の概説、使用したオルガン選択の理由、演奏解釈の基本的考え方が、フランス語、英語、ドイツ語で収められている。しかし、演奏に使用されたオルガンについての詳細な情報は省略されている。元のCDでは、オルガンについての解説、レギスター表、ピッチ、調律、さらには収録されている曲の演奏の際のレジストレーションまで掲載されていたのだが、この様な充分な資料があるにもかかわらず、今回の全集に収録されなかったことは極めて残念なことである。
この16枚組ボックス・セットのCDは、リチェルカールのウェブサイトでは49ユーロの価格が表示されており、円に換算すると約6,300円となる。日本のCD販売のウェブサイトでは、約1.5倍の値段で販売しているが、それでも1枚あたり600円前後でバッハのオルガン作品全集が入手出来るのだから、非常に買い得と言って良い。このフォクルールのよるバッハのオルガン作品全集は、演奏、使用楽器、録音、価格の4つの条件が揃った、現在入手出来る最良のCDである、と筆者は考えている。
発売元:
RICERCAR
以前にもお知らせしたが、RICERCAR、ALPHA、FUGA LIBERAのウェブサイトは、一時アクセス不能の状態になっていたが、現在は
OUTHERE
と言うサイトが新たに設けられ、いずれも英・仏・蘭語でアクセス出来るようになっている。
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コメント
Unknown
(
みーママ
)
2010-02-14 13:22:56
始めまして。
趣味で音楽ブログを綴っている者です。
チェンバロの音色について書こうと思って、バッハの調律に関していろいろ調べていたところ、ozawa様のブログに辿り着きました。
もしもよろしければ、2008年の8月30日の記事をブログでリンクさせていただきたいのですが、ご許可いただければ嬉しく思います。
どうぞよろしくお願いします。
(記事に関係ないコメントすみません)
ブログのリンクの件
(
ogawa_j
)
2010-02-15 10:33:04
みーママさん、『巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ第1巻』の調律に関する投稿ですね。どうぞリンクをしてください。あなたのブログも拝見します。
Unknown
(
みーママ
)
2010-02-15 22:25:23
ogawaさま、
ありがとうございます。
ogawaさまの細密画のようなブログと違って、ざっくりした印象しか書けない私ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
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チェンバロの音色について書こうと思って、バッハの調律に関していろいろ調べていたところ、ozawa様のブログに辿り着きました。
もしもよろしければ、2008年の8月30日の記事をブログでリンクさせていただきたいのですが、ご許可いただければ嬉しく思います。
どうぞよろしくお願いします。
(記事に関係ないコメントすみません)
ありがとうございます。
ogawaさまの細密画のようなブログと違って、ざっくりした印象しか書けない私ですが、どうぞよろしくお願いいたします。