私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



アナログのレコードは、曲や楽章の切れ目に、溝の幅が広い箇所があって、目で見ながらカートリッジの針先を落とすことが出来る。正確に曲の切れ目に落とすのは、結構難しいが、多少のずれはあっても可能である。ところが、CDなどデジタルデータによるソースの場合、目では何も確認できず、もっぱら再生機の本体あるいはリモートコントロールで、トラックあるいはチャプター番号を指定するしかない。もしディスクに記録されたトラック(チャプター)の情報に誤りがあったら、非常に困ることになる。
 バッハの死後250年に当たる2000年の前後に、本やCD、音楽会や学会など様々な企画があったが、その一つにワーナー・ミュージック・グループが、CDによるバッハ作品全集「BACH 2000」を発売した。基本的に1枚売りで、テルデックやエラートが持つ音源を集め、全作品を網羅したものである。たとえば、教会カンタータは、テルデックの教会カンタータ全集を主体にして、それに含まれない作品を、他の演奏で補充した。筆者はこのテルデックの全集はすでに購入していたが、そこで省かれた作品や、異版が発売されたので、何枚か購入した。その一枚が「BACH 2000」の62番のCDである。カンタータ36番「喜んで舞い上がれ」の最初の形、1725年に一人の教師の誕生日を祝って演奏された世俗カンタータ(BWV 36c)、断片としてアルトのアリアのみが残っているカンタータ200番、それに降誕祝日のカンタータ「キリスト教徒よ、この日を刻め」(BWV 63)の第3楽章のソプラノとバスのアリアのオーボエのパートをオルガンで奏する異版、棕櫚の日曜日またはマリアの受胎告知の日のカンタータ「天の王を迎えよう」(BWV 182)の第1楽章「アリア(シンフォーニア)」と第7楽章のコラールの異版という、単独のCDとしては成立しにくい内容のCDである。演奏は、トン・コープマンとアムステルダム・バロック・オーケストラのほかに、ペーター・シュライアー指揮のベルリン・ゾリステン、ベルリン室内オーケストラ、フリッツ・ヴェルナー指揮のフォルツハイム・南ドイツ室内オーケストラと言った、モダン編成の演奏も含んでいる、いわば寄せ集めの内容だが、他にはない曲が含まれているので購入したものである。
 ところがこのCDを聴く際、最後のトラック13を選んで、カンタータ200番を聴こうとしたら、曲の頭が切れて、途中から始まってしまった。おかしいと思ってもう一度トラック13番を選んでみたが、結果は同じであった。そこで後退キーを押してトラック12の終わり近くから聞いてみると、前の曲の演奏が終わり、しばらく間があって、カンタータ200番のアリアが始まってもまだトラック番号は12のままであった。そして約2秒後に、CDプレーヤーの表示はトラック13に変わった。つまりトラックの切れ目が約2秒後ろにずれているのである。
 実はそのときは、この最後のトラックのずれしか気がつかなかった。冒頭のトラック1や2曲目の始め、トラック2については、それほど気にならなかったのだが、今回この記事を書くに当たって、改めてすべてのトラックを調べてみたら、なんとトラック1、つまりCDの始まりの区切りもずれていることが分かった。最初のオルガンの演奏が、プツンと言う音が入っているように聞こえて唐突に始まるのである。トラック1が始まってすぐに、後退キーを押すと、表示はマイナス1まで戻り、一瞬の空白があって演奏が始まる。そしてそれに続くすべてのトラックで、演奏が約2秒、前のトラックの末尾に入っているのである。
 CDのトラックや演奏時間の情報が、どのように入れられているのか知らないが、聞いた話では、再内周部にTOC(Table of Contents)という情報が入っていて、この情報によってトラックの切れ目、トラックの経過時間、残り時間、CD全体の終わりからの残り時間が分かるようになっているそうである。そのトラックの切れ目が、絶対位置で入っているのか、始めあるいは末尾からの相対的な位置情報として入っているのかは分からないが、このCDの様に、全体的に約2秒のずれがあると言うことは、TOCの内容と音楽データの間に基準となる位置に不一致があるに違いない。少なくとも筆者の経験では、現在所有するCDの中で、この様な例は他には無い。

 これは別のCDの例であるが、EMI EMINENCEと題したシリーズで、イギリスのEMIが配給するCD(CD-EMX 2217)である。モニカ・ユゲットのヴァイオリン独奏、サー・チャールス・マッケラス指揮、オーケストラ・オブ・ディ・エイジ・オブ・エンライトゥンメントの演奏で、ベートーフェンのヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61と、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調、作品64の2曲を収めている。このCDのトラック1,ベートーフェンの協奏曲の第1楽章の終わり近く、オーケストラのトゥッティがフェルマータで終わって、ヴァイオリンがカデンツアを弾き始めた直後、18分31秒のところで突然約1秒の無音の箇所があり、18分32秒の表示とともに再び演奏の続きが聞こえ出す。この約1秒の間の音が抜けていて、無音の部分が挿入されているわけではないように聞こえるのである。このCDを購入してすぐに聴いたとき、CD盤面のこの箇所にゴミがついているか傷があって、音が飛んだのではないかと思い、まず盤面をクリーニングして再度かけてみたが、状況は変わらず、見た目では傷も見られないため、購入した店に持って行って、別のものを取り寄せてもらって再生してみたが、やはり同じであった。したがってこの場合、CDの原盤に問題があるという結論に達した。全部で66分19秒の演奏の中のたった約1秒の空白ではあるが、聴いている者にとっては、非常に鑑賞の妨げになるものである。その結果として、このベートーフェンのヴァイオリン協奏曲は、全く聴かなくなった。
 これは筆者の個人的な感想だが、CDが登場して、しばらくして爆発的に普及していった当時は、様々な理由で、再生の途中で障害、たとえば一カ所で停滞して先へ進まなかったり、先へ飛んでしまったりするものが多かったような気がする。そのころは、CDを買ってくると、いったん全体を再生してみないと不安だったが、最近はそのようなことはなくなった。それはCD自体の製造技術がよくなったためか、あるいはプレーヤーの側のエラー補正技術や追従能力がよくなったためか、おそらくその両方が理由かもしれない。
 ここで紹介した2枚のCDは、先に取り上げた「平均律」のLPの様に、私にとって貴重なものとは言えないが、入っている曲は必要なものなので、捨ててしまうわけには行かない。「BACH 2000」の方は、聴くときにはいったん聴きたい曲のトラックを選んで、後退ボタンで少し戻して再生するという、面倒な方法をとらなければならない。そのため、音楽を編集するソフトウェアで呼び込んで、前のトラックの末尾に入っている次のトラックの冒頭に入るべき部分を切り取って、次のトラックの始めに貼り付け、継ぎ目に空白が入らないように編集して、CD-Rに焼いて、個人用のCDを作り、それを聴いている。


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