ぼそりぼそり彼は朗読をします。林の中に空間が空いているところがあります。そこから円い空が覗いています。彼の朗読の声はここから空へ上がって行きます。声帯の振動数を528hz(ヘルツ)の半分の264hzにするといい気持ちになります。ときどき風が来て彼の声をストローで呑んでしまいます。風も彼の声を欲しがるのです。もちろん小鳥たちも彼の朗読を愛しています。周囲に集まって来てそれぞれが心地よくしているのが分かります。朗読するのは唐詩選の詩だったり、妙法蓮華経妙音菩薩品だったり、古事記だったり、エマソンの自然論だったりします。なんでもいいのです。三月の空を賛美する即興詩だっていいのです。声は捧げるものです。人間の声は、彼に言わせると、ただただ捧げるために発声するもののようです。心地よくが原則です。発声者がここちよくしているので、それが宇宙空間を伝わっていく間に増幅されて、聞声者の耳に届く頃にはその愉快さが最初の100の10乗くらいになっています。聞くのは彼をこよなく愛して止まない高次元の存在たちです。彼の喉の声帯1を取り巻いているのはほとんど無限数の耳たちです。みんなエネルギー体、生命体です。えええっ、そんなにもたくさんのファンがいたのかとびっくりするほどです。しかも、彼らが一斉に快感ホルモンのエンドロフィンを放ちますので、銀河は独特の乳白色になってしまいます。発声は難しくはありません。彼が心地よくしているとその振動数を吸いこんだ声がこれに合わせてくれるのです。
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