わたしは風。微風。そよそよと吹き抜けるそよ風。
爽やかさを満たして、たちまちに去る。
吹き抜けて行けば、そこにはもう何もない。
過ぎて行く風。後に何も残さない。
風は、そこにいた痕跡を残さず、去って行く。
去って行くことに躊躇(ためら)いがない。
わたしは風。形もない風。
草木に爽やかに吹いて、草木を爽やかにして行く風。
その記憶をとどめることもしない風。爽やかな風。
かくこそありたい。
風には見えていないけれども、その実、人も風に過ぎないのかもしれない。