月の明るさが、良寛さまを誘い出した。
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しろたえの衣手寒し秋の夜の月なか空に澄みわたるかも 良寛禅師
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若い貞心尼が意を決して初めて良寬様の寓居を訪れてきた。ふたりは夜も更けるまで仏道の話を交わし合った。月が昇って来た。そしてこの歌を詠んでさらさらと短冊に書いて彼女に手渡した。「しろたえの」は「ころも」に掛かる枕詞。「衣手」は袖のこと。良寬様は薄衣の僧衣をお召しになっておられたのだろう。それでは月の夜は寒い。澄み渡っていたのは、中空に上がった月だけだったのであろうか。
此の歌に貞心尼も即座にこう返している。
向ひゐて千代も八千代も見てしがな空ゆく月のこと問はずとも 貞心尼
わああ。直截だなあ。良寛さまとと向かい合ってこの夜ずっと、いや千代も八千代もこうしていたい。空に昇ったお月さまの行く末はお月さまにお任せをして。
貞心尼の心は、どうやら甘えてそっくり寄りかかっておいでのようだ。良寛さまと歌の遣り取りをなさるとは! 歌の友を得た良寛さまも嬉しそう。
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