石の上に秋の陽しろきよき日なり 安らへよいま青き蜥蜴よ 群馬県 柴崎好子
坂井修一選 特選 (NHK全国短歌大会入賞作品より)
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絵だ。絵が現出している。美しい絵だ。ことばという絵筆の巧みな使い手だ。青々とした背中の蜥蜴が石の上にいる。秋の陽が射している。たったそれだけなのに、短歌の魔術に掛かるとこの通りだ。石の上に秋日が射すとどうしてよい日になるのか。秋の陽が射したところだけが白く光っている。そこへ青い背中をした蜥蜴が悠々と安らいでいる。これでこの位置のこの時間が宇宙中が一斉に賞賛する<よい日>になっている。「安らへよいま」の命令形は「さあ、もっと安らぐがいい」「この瞬間を安らいでおくといい」というくらいのやさしい表現なのだろう。 ことばで描いた美しい絵を見た。白い青い絵を見た。よほどよほどポエテイックな目を養った方なのだろう、作者は。こうなるともう和歌は文字の範疇を超えて次のさらに高い抽象世界にまで行ってしまうようだ。
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