もういい。もういいよ。もう沢山だよ。思い出したくもない。
僕の捨て台詞である。一人でぶつぶつぶつぶつ泡を吹いている。蟹の穴を出たり入ったりしながら。そして最後にこう締めくくる。
人生は終わったんだよ。
すべては過ぎ去ったことなんだよ。良いも悪いもなかったんだ。
べっとりくっついている毀と誉と褒と貶のペンキ。そんな色なんかついてはいなかったんだ。そのときには着色されていたけれど、過ぎてしまえば、みんな無色透明。無評価だったんだ。
そこにないものを有るとして来たけれど、それに拘って来たけれど、色付けに苦心をしたけれど、もういい。もういいよ。もう沢山だよ。
船は港を出て行こうとしている。この世の桟橋を渡り終えた者の目に映っているのは、赤い空と白い夕月である。
手にしたものはない。あの世に携えていくものはない。何にもない。有ると思って精々、精魂を傾けて来たけれど、何もなかった。
これでよかったのである。
失って行くだけである。見失って行くだけである。これには訳がある。新しい目で見る時が来ようとしているからである。
新しい目が与えられて行くだろう。然り。新しい目が与えられて行くだろう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます