ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

劇団のお芝居を拝見してきました

2008-04-14 02:27:31 | 能楽
今日は朝から師家で稽古がありまして、それが思いのほか早く終わったので、友人の劇団のお芝居を拝見に伺って参りました。ん~、日本で能以外のパフォーミング・アーツを見るのはもう何年ぶりだろう。。

その友人というのが、2月の初旬に ぬえが初めて参加してみた「演劇人交流パーティ」というもので はじめてお目にかかった演劇関係者のお一人だったのです。その程度のお付き合いだからちょっと「友人」とは言いにくいかもしれませんが、パーティのあと情報交換の連絡だけは続けていました。そしてこの度頂いた公演のお誘いの連絡は。。「私、主役なんです」 え~~マジっすか!!??

能とは違って数日間の上演でしたが、なかなか ぬえの時間が取れず。。今日は公演の千秋楽だったのですが、たまたま師家から歩いて行ける距離の劇場「笹塚ファクトリー」が会場だったのと、師家での稽古が終了した時刻がちょうど開演時間とうまく合ったために、ようやく拝見することができたのです。

「笹塚ファクトリー」。。笹塚は京王線の駅で新宿からはお隣の駅です。そして。。ぬえは書生時代に、その時期の半分はこの街に住んでおりました。現代では住宅事情もあって、ぬえの師家では内弟子修行は住み込みではなかったのです。でもまあ。。ある意味では住み込みよりも厳しく生活管理はされていましたですけれども。それでも今となってはなんだか思い出深い9年半の修業時代で、その苦楽を ぬえはこの街で感じながら過ごしました。でも。。この街に劇場があったとは知りませんで。。今日も急に拝見に行けることになったのですが、劇場が見つけられずに困りました。。なあんだ、駅前すぐにあったのね。。

ちなみに ぬえが拝見した舞台は IQ5000という劇団の公演「最後の旅立ち いかないで、おじいちゃん」というものでした。

劇団のURLはこちら→劇団IQ5000

会場の「笹塚ファクトリー」はビルの地下にあって、キャパシティは100名ちょっと、という感じでしょうか。今日はほぼ満席でした。しかし。。この公演を拝見して、能楽師として感じたことは本当にたくさんありました。見習わなければならないことも、能を再発見したことも。

今回 ぬえがこの公演を通して能について思うのは、まずは何といってもこのような公演の入場料の安さでしょうね。2,000円から3,000円までの入場料。。これは能では考えられない金額だけれども、やはり能を現代の若いお客さまに親しんで頂くには、まず最低数千円からという能の入場料では無理なのではないか? 。。これは自明の事なのかもしれないですし、現にこの公演に集まったお客さまは演者と同じ20~30代の若いお客さまが大半でした。

しかし出演料や面装束にかかる経費、そして舞台料を考えると、能楽堂はこの公演の数倍のキャパシティを持ちながら、能の入場料をこの金額のレベルにまで引き下げるのは容易ではないでしょう。国立能楽堂は安価に主催公演を提供しているけれども、それは出演料が通常の公演とは別に計算されるからなので、これを直ちに各流儀の自主公演に応用できるわけではないですし、現実問題として国立能楽堂の安価な公演がほとんど満員の盛況でありながら、そこに観客が集中するために、流儀の催しの集客が圧迫されている、という実情も耳にする事があります。

でもまた、古典芸能が必ずしもポピュラーとは言い難い現代、若い観客層を能楽堂に招いて、その魅力を知って頂かなければならないのが急務だと思うのに、流儀の主宰公演の高価な入場料は そのお客さまを生み出し、成長させる事をさえ拒絶してしまっている可能性が高いのも、これまた認めなければならない事実でしょう。「難しそう」「つまらない」という、ややもすれば若い方々に植え付けられているような先入観も、実際に舞台をご覧頂ければ払拭する自信を、演者として ぬえは常に持っているつもりではあるのですが、そもそも そういうネガティブな印象を持たれている古典芸能であるならば、なおさら「能楽堂に足を運びやすい環境」を、演者の側が提供できなければならないでしょう。

ここまで来ると能楽界のシステムそのものが問い直されている時期なのではないか、ぬえはそう思います。入場料。。すなわち出演料などの経費の問題、公演の広告・宣伝の問題。そして今回の劇団の公演で思った、お客さまへのケアの問題、というのもあります。ともあれ、まずは多くの方。。とくに若いお客さまにどうやって能に親しんで頂くのか。それは能楽師がよく催すワークショップや講座を開催するのとは別の次元で、いままさに問い直されなければならない時期に、能楽界は立たされているのではないか? と思います。たぶん多くの能楽師は ぬえと同じ危惧を多かれ少なかれ感じてはいると思いますが、能楽師の生活を保障しながら大きな変革を実現するのは困難でしょうから、なかなか打開策が見つからないのではないでしょうか。

でも、今こそそれを真剣に考える時。。なのかも知れません。。

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