田園城郭都市構想 30

2017年03月08日 | 湖と城郭都市

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
.日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-
6.世界遺産登録に向けた取り組み
7.街道と湖上交通と都市形成

7-2 湖上交通史
7-2-4 観光・祭祀

● 観光の現在日本の意義

現在、「地域の活性化」という掛け声のもとに、観光の持
つ経済的側面
にスボットライトが当てられる場面か増加し
てきている。これは高度消費社会或いは高度資本主義社会
(前社会主義社会)、超高齢・超少子社会に突入した日本
社会の現実の反映であるが、東京一極集中に象徴される陰
の部分(過疎化、格差拡大、硬直した中央集権)の投影と
看ることができる。また、前記の経済的意義と並んで、文

化的・社会的・哲学的意義についての認識の深耕を行う必
要が問われているところでもある。

● 「観光」の日本最古の使用例

幕末から明治にかけて広く用いられるようになってきた「
観光」には、
日本において、これまで広く共有されてきた
知見に比べて、より古い用例か存在し、かつ、そ
れぞれの
時代の知識層によって、より広い意味で使用されてきた。

これらの用例は、紀元前4世紀ごろに成立した「易経」を
源――『易経』の観卦の爻辞には次の六つ(六爻)があり、
頭の部分にある「六、九」は陰陽を表し、「初、二、三、
四、五、上」は位を表す。「観光」の語源は4番目の爻辞
の「六四 観国之光 利用賓于王 (国の光を観る もっ
て王に賓たるによろし)」――としている。
 

 観は近きより明らかなるは莫し。五は剛陽中正を以て
 尊位に居る。聖賢の君なり。四は切に之に近し。其の
 道を観見す。故に云う国の光を観ると。国の盛徳光輝
 を観見するなり。君の身を指さずして、国と云うは、
 人君に在りて言えば、豈に止に其の一身に行うを観ん
 や。当に天下の政化を観るべし。則ち人君の道徳見る
 可し。四は陰柔と雖も、巽体、正に居る。切に五に近
 し。観見して能く順従する者なり。用て王に賓たるに
 利あり。夫れ聖明、上に在れば、則ち才徳を懐抱する
 の人、皆な朝廷に進み、之を輔戴し、以て天下を康済
 せんと願う。四は既に人君の徳・国家の治の光華盛美
 なるを観見す。宜しく王朝に賓し、其の智力を效し、
 上は君を輔け、、以て沢を天下に施すべし。故に云う
 用て王に賓たるに利ありと。古者、賢徳有るの人は、
 則ち人君之を賓礼す。故に士の王朝に仕進すれば、則
 ち之を賓と謂う。

             本田済『易経講座』(明徳出版社)

つまり、「国の光を観るは、王の賓たるによろし」(地域
が光り輝いている状況を見るために来訪する人(ゲスト)
は、王(ホスト)の賓客としてもてなされよう)という意
味である。



● 旅の歴史

このことを踏まえ、前田勇立教大学名誉教授は「旅する理
由と心理、旅の楽しさ」(「ノーマライゼーション 障害
者の福祉」2005年10月号)で、旅(旅行、観光、ツーリズ
ム)の歴史をわかりやすく解説しているので、その要点は
次のようになる。

  • 人間が旅をする理由は段階的に移り変わる。
  • まず主人の命令とか、生活のための必要に迫られて
    する旅が最初に発生し、それが長い間、旅の本流を
    占める。
  • 必要に迫られてする旅」は“生命を守り”生活を
    維持するための内部からの強圧による旅と、権力か
    らの命令という外部からの強制による旅との2種類。
  • そして信仰とか慰みのためとかの「自ら好んでする
    」の発生は、文化がある一定段階に到達したとき
    に初めて慣行化される。
  • 庶民の旅は除災招福を求めた信仰心により始まり、
    信心の旅は、平安末期にみられ、鎌倉時代になって
    広がりを示し、熊野詣でが伊勢神宮へと次第に移る。
    室町時代以降になると伊勢崇拝が民衆に広く根を下
    ろし、江戸時代には伊勢参宮はさらに大衆化する。
  • 「自ら好んでする旅」が広がり、観光が社会事象と
    して認識されるようになるのは20世紀に入って、
    大衆観光時代の到来は第二次大戦後で、日本で1970
    年以降。

● 旅する理由

同様に旅する理由について、多くの人が「自ら好んでする
旅」を自由に楽しむことのできる現代では、次のように、
旅をする理由もまた多種多様である。

  • 動機を、思郷心・交遊心・信仰心、知識欲求・見聞
    欲求・歓楽欲求にそれぞれ細分化。
  • ①身体的動機を治療欲求・保養(慰労)欲求・運動
    欲求に、②経済的動機は買物目的・商用目的に分類。
  • 日本の若者の旅行動機分析では、①旅行動機には、
    気分転換・自然に触れることなどを理由とする「
    張解除の動機」、②皆が行くから・常識として知っ
    ておくなどの「社会的存在動機」、③未知へのあこ
    がれなどの「自己拡大達成動機」の3分類される。

● 旅をする人の心理

日常生活圏を一時離れて、外の世界へと出かけた人に共通
してみられる心理的特徴は、「緊張感」と「解放感」とい
う相反する感覚が同時に高まることにある。日常生活を離
れ、よく知らない土地では不安感が強まりやすく、外部環
境の変化にすぐに対応できるように、心身ともに反応可能
の状態を維持しようとする。この状態であることの意識が
緊張感」で、感受性を高めることに作用し情緒的反応も
活発化する。出会ったものごとに対しての快・不快、好き・
嫌いなどの印象は強くなり、平素とは違うものに興味を感
じる傾向がみられ、とくに外見的な珍奇さに心をひかれや
すくなる

また、何かを学ぶことを主目的とする「教養型」と気晴ら
し・楽しみを求めている「慰安型」がある(※付け加える
なら「教養型」と「慰安型」の双方をかなえるものもある
だろう、トレッキング・登山などの運動型などが該当しそ
うだ。

● 旅の楽しさ

その理由や目的を問わず、旅をすることは、日常生活を一
時的に離れて自己を見直すという意味を共通して持ってい
る。平素とは違った環境での、自然や文化あるいは人々と
の出会いは、自己確認と発見の新たな機会をつくる。とく
に、美しい・楽しい・美味しいなどの感情を伴っている場
合、人間をより豊かな世界へと導く作用を持っている。人
を知識面だけではなく精神面でも成長させてくれる機会と
して旅を利用することが大切で、新しい体験を楽しいもの
として受け止める姿勢が求められ、旅の価値を決めている
のは旅をする人自身の気持ちであり、心構えであると指摘
する。

● 観光とツーリズム
 

特に近年、「観光」という用語に物見遊山的な、あるいは
ビジネス的・事業的なニュアンスを感じる場合、あえて
「観光」を用いず「ツーリズム」という用語を充てている。
原義であるtourは、ろくろで回すという意味があり、その
意味では「周遊」に近い概念と言える。ただ、今日では
「ツーリズム」は、「観光」とイコール、さらに広義では
業務も含む「旅行」そのものと解釈されている。
 

しかし、近年はツーリズムという言葉は特に観光業者の間
では特別なものと認識されることも増え、①物見遊山的な
観光をサイトシーイングとして昔の物、②体験型観光とし
て位置づける動きが強まっている。そして、ツーリズム自
体もその特性によりさまざまな言葉を付加して区別し、①
自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光で、
環境に配慮したツーリズムをエコツーリズム、②自然特に
山や
森などを扱うツーリズムを③グリーンツーリズム、④
自然特に海を扱うツーリズムをブルーツーリズムと呼んだ
り、地域独自のツーリズム名が生まれたりしている。

                    この項つづく
 

【エピソード】

 

● 滋賀県はエコツーリズムのモデル地区

エコツーリズムは、地域資源の健全な存続による地域経済
への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護
+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方で
ある。それにより、旅行者に魅力的な地域資源とのふれあ
いの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資
源が守られていくことを目的とする。

また、エコツーリズムの健全な推進を図るためには旅行者、
地域住民、観光業者、研究者、行政の5つの立場の人々の
協力がバランス良く保たれることが不可欠であるが、滋賀
県は、エコツーリズムのモデル地区であることをこのシリ
ーズで明らかにしていこう。

 

 

【脚注及びリンク】
-------------------------------------------
  

  1. 日本を観光立国にするための3つの課題:日経ビジ
    ネスオンライン 2016.11.17
     
  2. 企画展示「湖の船」開催記録 びわ湖最後の船大工・
    松井三四郎大いに語る 琵琶湖博物館研究調査報告 
    19号 2012.03.21
  3. 古代の都支えた湖畔の製鉄炉 古きを歩けば(49)
    源内峠遺跡 2013.03.12 NIKKE STYLE
  4. 鉄鉱石の採掘地と製鉄遺跡の関係についての試論―
    滋賀県の事例を中心に―」(
    大道和人 滋賀県文化財
    保護協会紀要 No.9 2012.06.08
  5. 淡海文庫 「信長 船づくりの誤算―湖上交通史の再
    検討」用田 政晴【著】1997.07.20
  6. 世界遺産の保全と住民生活-「白川郷」を事例とし
    て-」才津祐美子、福岡工業大学、環境社会学研究
    (12)、 23-40、2006-10-31)
  7. NPO法人 彦根景観フォーラム 第4回世界遺産を目
    指す彦根の課題
     2008.02.29
  8. 世界遺産所在自治体の保全と観光活用に関する取組
    事例集 国交省観光庁 2014.10.24
  9. 世界遺産登録による経済波及効果の分析 えひめ地
    域政策研究センタ 2007.01.11
  10. 世界遺産登録と持続可能な観光地づくりに関する一
    考察『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会)
    新井直樹 第11巻,第2号,2008年9月
  11. 世界遺産を活用した観光振興のあり方に関する研究
    運輸政策研究所 第35回 研究報告会 小室充弘
    2015.08.05
  12. 世界遺産登録に向けた取り組み(2014年度)彦根市
  13. 世界遺産に登録されるまで|世界遺産検定 NPO法
    人 世界遺産アカデミー
  14. 高句麗平壌城の都市形態と設計 閔徳植、 国際日本
    文化研究センター学術リポジトリ
  15. 松本市の都市計画 松本市
  16. ひこにゃんがいてもダメ? 彦根城はなぜ世界遺産
    になれないのか 週刊朝日 2013年6月28日号
  17. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー前編 2007.03.02
  18. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー後編 2007.03.09
  19. 第1回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々木
    啓明 2011.10.05
  20. 2回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々木
    啓明 2011.10.07
  21. 第3回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々木
    啓明 2011.10.19
  22. 第4回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々木
    啓明 2011.10.26
  23. 第8次彦根市交通安全計画 2012,03.22
  24. Core Strategy (2013) - Milton Keynes Council
  25. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  26. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  27. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存活
    用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  28. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  29. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  30. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  31. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  32. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  33. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  34. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  35. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  36. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  37. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  38. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  39. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  40. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  41. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市 橋梁長寿命
    化修繕計画による対策橋梁について滋賀県
  42. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  43. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導の
    まち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の場合
    -(これからの都市づくりと都市計画
    制度全国市長
    会) 中島一 2005.05.09
  44. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  45. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  46. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  47. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  48. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  49. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  50. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  51. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  52. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    新書
  53. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  54. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  55. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  56. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  57. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  58. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  59. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  60. 彦根市立図書館|簡易検索

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